以下「山河有情 〜ふる里の昔ばなし〜」青山轍山著より
田舎の夜が一段と深まって草木のすべてが眠りに入り、真夜の頃になると、新木津用水から西へ八百メートル程離れた西行堂川の堤防を舞台に、夜にも不思議な奇妙なドラマが始まる。
村の人たちが萱場の一本樫と言っている西行堂川の堤防の上にある樫の根元に狐火が一つ
灯った。(この萱場の一本樫も、戦後誰が切ったのか姿を消してしまった)。次の瞬間その一つの狐火は、左右一列に二メートル位の間隔を置いて、四つ六つ八つと次々に数を増やし、十五程の狐火が横一列に整然と並んだ。
やがてその狐火は隊列を縦隊に変えて、堤防の上を北に向かって移動を始めた。狐火の一つ一つが、まるで跳躍するように、ピョンピョンと跳び跳ねながら、堤防を北上して進んで行く。西行堂川が新木津用水と交叉する地点に達すると、今度は反転して南下を始める。秩序整然として一糸乱れることなく、まるで軍隊の行進のように、一本樫を通過して牛山新外の集落の辺りに達すると、隊列の狐火は、すべて瞬間に消えた。
それから、三分程して再び萱場の一本樫の根元に狐火が一つ灯った。その狐火は数を増やして、十五程になると方角を変え、跳躍しながら北上し、用水の交叉地点で反転し南下して牛山新外に達すると狐火は一斉に消える。この繰返しが夜中続けられる。
この奇妙なドラマを当事の人は、狐の嫁入行列と言った。夏の夜の寝苦しい深夜、床から起き出て、このドラマに気付く地元の人は、「また萱場の狐の奴らが始めているな」と気にも留めない。
何故このような現象が起きるのか、昭和以降に生まれ、この奇妙な狐の仕業に遭遇したことの無い人たちには、納得の出来ない話だが、子供の頃から度々このドラマを見ている私には、懐かしいとさえ思っている。