男の旅は一人旅 越後編 1
2004年10月に新潟県を襲った中越地震。あれから5ヶ月、いま新潟はどんなことに
なっているのか。震災直後はもちろん、それなりに復興したあとも新潟への観光客は
激減し、中越だけでなく上越や下越地方の観光も不振に陥ったと聞くが、もちろん
温泉地もその例外ではない。温泉野郎である自分が、いま微力でも新潟のためにできる
ことは、現地に赴き、そのありのままの状況をインターネットというツールを用いて
全世界に向けレポートすることしかない。と思っていた矢先、仕事で担当していた
苦痛以外の何物でもないモチベーションゼロの案件にやっとメドがついたため、自分を
慰労する意味でも新潟行きを即決した。いつだったか、うちの母親がたしなめるように
「あんたも結婚したからもう一人旅することもないやろ。お嫁さん一人家に残しとく
わけにもいかんしね」的なことを言ってたっけ。でも甘い!甘いぜ母ちゃん!
名古屋から新潟に行くルートってなかなかうまいのがない。最初は、青春18きっぷを
利用して東京経由で夜行快速「ムーンライトえちご」に乗ろうと思ったが、中越地震の
後遺症でまだ運休中とのこと。夜行バスで高崎まで行き、JRで水上、長岡を経由して
北上するルートもあるが、まだダイヤが乱れ気味らしいのでこれも断念。結局、金に
物言わせて長野から車を借りていくことにした。
名古屋駅の10番ホームで特急しなの1号の入線を待つ。ふと売店をみると「海鮮わっぱ飯」。
こんな駅弁あったっけ?即購入してむしゃむしゃ食べる。あさりの炊き込み飯にホタテや
イカが乗っていて、名古屋駅の駅弁の中ではかなりイケてる。弁当を食べ終えると爆睡。
目が覚めるとまもなく長野駅に到着した。

旅の始まりは駅弁「海鮮わっぱ飯」
車を借りて須坂長野東インターから上信越道に乗り、上越インターで降りる。そこから
しばらく国道8号線を北上し、最初の目的地・鵜の浜温泉に到着した。昭和のはじめ、
石油を採掘してみたら油は出ずに天然ガスと温泉に当たってしまった、というのが
鵜の浜温泉の起源らしい。目の前は日本海の荒波、こんな風景を見ながら入れる風呂を
探していると、「ホテル見はらし」という旅館を発見。いかにも絶景を眺められる
展望風呂がありそうなネーミングだ。立ち寄り湯を申し出ると1階の浴室に案内された。
え、1階なの?!浴室にはタイルの内湯がひとつ。ガラス窓の向こうには猫の額のような
小さな庭が見えた。オ、オイ、どこが「見はらし」なんだよ!とりあえず湯につかると、
黄色透明の湯は海の近くらしいしょっぱい塩味。泉質はナトリウム-塩化物泉。けっこう
成分が強いらしく、壁や湯口は赤錆色に染まっており、赤茶色の湯の花も漂っている。
日本海の絶景はおがめなかったけど、なかなか気持ちいい第一湯に満足できた。
湯上りの散歩に海岸に出てみた。夏は海水浴場となる浜も閑散として寂しげ、
そこには荒波がざっぱーんと打ち寄せている。風もものすごく強くて冷たい。
うーん、日本海やなあ。

鵜の浜温泉ホテル見はらし 荒海の風景を期待したんだけど・・・
鵜の浜温泉からさらに北上し、柿崎町に入って国道から逸れて山のほうへ向かう。
山間部に入るとさすがに平野部ではほとんどなかった雪が残っている。両脇に雪の積もる
細い道を進み続けたそのどん詰まり、ようやく栃窪温泉「鷺乃湯」に到着した。
中央に玄関、左に宿泊棟、右に浴舎という構成の木造建築は渋いの一言。僕はやさしいので
渋いなんて言っているが、普通の人ならぼろいの一言で片付けるところだろう。
ガラガラと戸を開けると、明るく人当たりのいいおばちゃんが出てきた。お金を払い、
浴室へと続く廊下に入ると、プーンとネギの香りが。廊下の幅の半分以上はネギや
イモが占拠しており、人間はその残余スペースを歩いていくことになる。
浴室に着くと、これがまた渋い。小さな石の湯船のフタを取ると、暗色の鉱泉の
沸かし湯が。熱めに加熱されており、泥っぽい金気臭、黒いゴミのような湯の花が
舞っている。「熱いときは源水で」という注意書きがあったので蛇口をひねると、
極太パイプから冷たい源泉が流れ出してきた。ここは泉質がどうとかいうより、
このしぶーい雰囲気がなんだか気に入った。

鷺乃湯外観 ネギの香る廊下を進む

渋い浴室 「熱いときは源水で」
昼飯抜きでどんどん湯巡りしよう!と思っていたのだが、柏崎市に入ったあたりで猛烈に
腹が減ってきた。国道脇の食堂「松ヶ崎」へ飛び込み、「地魚をつかったおすすめは?」と
聞いてみた。おすすめは焼魚定食、今日の地物はイシモチ、メバル、メイタガレイから
選べるとのことなので僕はメバルをセレクト。新鮮な焼きたてのメバルは脂が乗って身が
ほろりとくずれる。うまい!イカやブリ、甘エビの刺身も良い。新潟は魚うまいなあ。
うーん、やっぱり昼飯食べといて良かった。

焼魚定食 焼きたてのメバル
車はどんどん北上を続け、一気に寺泊町へ。海岸線の道から山のほうへ逸れてしばらく
行くと寺泊温泉「北新館」に到着した。ここの宿は硫黄泉と食塩泉の2種類の源泉を
持っている。まずは硫黄泉。冷鉱泉を沸かした湯はうっすらと白濁、ほとんど無味無臭で
黒い湯の花が浮いており、肌あたりがやわらかい。そしてもうひとつの食塩泉、これが良い!
湯口や浴槽の縁は温泉成分の濃さを物語るように赤茶色に変色してゴテゴテになっている。
そこに掛け流しで注がれる湯は薄い塩味で、赤茶色の湯の花が浮遊。ぬるめの温度が
ものすごく気持ちいい。2種類の源泉につかってなんだかお得な気分になれた。

北新館硫黄泉 北新館食塩泉
寺泊といえば、鮮魚店が軒を連ね「魚のアメ横」と呼ばれる寺泊アメヤ横丁が全国的に
有名な所。観光スポットにもなっていて、何台もの観光バスが停まっている。道路沿いに
たくさんの魚屋がびっしりと並び、地元新潟であがったものから北海道や九州から来た
ものまで、たくさんの魚であふれている光景は壮観。これ欲しいなあという魚もたくさん
あったけど、まだまだ旅は始まったばかり。お土産を買うには早すぎる。各店には必ずと
いっていいほど焼魚コーナーがあり、僕はホタテバター焼きを注文。大きくて焼きたての
ホタテがたまらなくうまい!

魚のアメ横・寺泊 魚・魚・魚!
寺泊から弥彦村に入り、岩室村方面へ走ると、鉄骨の大きな源泉ヤグラが見えてきた。
日帰り入浴施設・多宝温泉「だいろの湯」である。玄関には「天然自噴温泉100%掛け流し」の
文字があり、この玄関にはすでに硫黄の臭いが漂っている。浴室に入ってみると庭園大露天風呂と
いう大きな湯船があり、きれいな緑色の湯がたっぷりとあふれ、すばらしい硫黄臭が立ち上っている。
泉質は含硫黄-ナトリウム-塩化物温泉。ヒシャクで源泉を飲んでみると、苦くてまずい硫黄味+塩味。
硫黄臭ぷんぷんの緑色の源泉にとっぷりとつかると気持ちいい!これはすばらしい。
外に出てみると滝湯が設けてあり、エメラルドグリーンの美しい湯の色が一段とはっきりわかる。
そして、子供の水遊び用というとんでもない理由で設けられている岩の露天風呂には、浅い位置から
汲み上げた温度の低い源泉が非加熱のまま掛け流しになっており、水色に近い白い濁り湯。
タマゴ系の硫黄臭がたまらなくいい!これもすばらしい!泉質がいいのに加え、源泉を100%
無駄なく掛け流し利用している姿勢も好感が持てた。ここは良い!

緑色のだいろの湯 白い露天風呂
日も暮れてきたところで新潟市内に入り、旧市街地である古町地区にある今夜のホテルに
チェックインする。しばらく部屋でごろごろしたあと夕食を食べに町に出てみると、細い路地に
趣のある割烹なんかがあったりして、ちょっとほめすぎかもしれないけど古都・金沢のような
雰囲気をほんの少しだけ感じることができた。一人でふらりと入るには敷居の高そうな店が
多いなあ、と思ってしばらくうろうろして見つけた小さな居酒屋に入ってみた。中年夫婦2人で
営むカウンターのみの家庭的な店で、ビールを頼むと付出しはコチの唐揚げ。ホワイトボードに
マジックで書かれた今日のおすすめの中から、カキの天ぷら、バイ貝の酒蒸し、アンキモを注文。
そして新潟といえば日本酒。新潟ブランドの酒を味わうならやっぱり冷酒なんだけど、僕は
冷やよりも熱燗のほうが好きなので、燗してもらってちびちびと飲む。自家製だという
アンキモがかなりうまく、酒がすすむ。すっかりいい気分になったところで部屋に戻ると、
知らない間に眠りについていた。

バイ貝酒蒸し アンキモ
翌朝、歩いて新潟本町市場に行ってみた。朝の9時、まだほとんどの店は出店準備の
途中だったが、お目当ての鈴木鮮魚店に行ってみると威勢良く迎えられた。「刺身も焼魚も
なんでもできるよ」とおばちゃん。好きな魚を好きなように料理してその場で食べさせて
くれるらしい。「この南蛮エビっていうのは甘エビに似てますね。」「いっしょだよ。
新潟では甘エビと呼ばず南蛮エビと呼んでるんだよ」とおばちゃんに教えてもらった
南蛮エビの刺身を注文してみた。佐渡沖で獲れたというエビをおっさんが店先からつまんで
くると手際よくカラをむいてくれた。わさび醤油で食べるとうまい!あまい!スーパーで
売ってるようなベタベタした感じがまったくなく、身がしっかりとプリプリしている。
「今日はどこに行くの?」と話しかけてきた店のおばちゃんに、新潟のいろんな情報を
教えてもらった。刺身を食べて立ち去ろうとすると、5月にはいい岩ガキが入るから
その頃またおいでと言ってくれた。また来たいなあ、ここ。また違う季節に旬の魚を食べに
絶対来てやろうと思いつつ、新潟市を出発した。

佐渡産の南蛮エビを刺身で!
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