男の旅は一人旅 越後編 2
新潟県下越地方、聖籠町・紫雲寺町・中条町から村上市にかけては強力な食塩泉が湧く
侮れないエリアになっており、今日はまずこのエリアの湯を攻めていくことにした。
新潟市から北へ向かって聖籠町へ入り、聖籠観音の湯「ざぶーん」という温泉施設に
行ってみた。浴室入口に、県の指導で循環ろ過を行っていると明記されており、
源泉掛け流しでないことにがっかりしたが、その湯は循環ろ過をものともしない
強烈な個性を持っていた。湯船の湯は黄色透明、モール系の臭いに加え、ツンと
くるようなアンモニア臭がする。もともと地層の間にたまった海水が地熱で温まり、
そこへ天然ガス成分が溶け込んだため独特の臭気が含まれたようだ。湯をなめて
みると塩味を感じ、強い塩分で皮膚がヒリヒリする。これはなかなか手ごわい湯だ!
露天風呂もあり、アンモニア臭は内湯より弱いものの、体中に小さな気泡がつき、
つるりとする肌触り。ほんとに循環ろ過の湯なの?というくらい個性豊かな湯。
さすがは強塩泉エリアだなー、なんて思っていたが、この「ざぶーん」の湯は
まだまだ序の口だった。

ざぶーん外観 露天風呂
中条町の国道113号線を北上していると、道路脇に突然巨大な石像が現れた。
こ、これは笑点の桂歌丸師匠だ!車を留めてよく見てみるとどうやらこれは
「越後の里 親鸞聖人」という宗教法人の施設らしい。ということはあれは
歌丸師匠じゃなく親鸞聖人像ということになる。そして僕が目指していた温泉
「西方の湯」はなんとこの施設の中にあるという。おそるおそる怪しげな建物に
入ってみると、エントランスで入浴を受け付けてくれた。仏教画みたいなのが
夥しくかかっている廊下をすすんで浴室に入ると、異臭が立ち込めている。
ツーンとするようなアンモニア臭。僕はやさしいのでアンモニア臭なんて
言っているが、普通の人なら便所臭の一言で片付けるところだろう。とは言え、
僕も思わず高校時代に住んでいた寮の便所を連想してしまった。なんて臭いの
湯なんだ!だがアンモニア臭と笑うなかれ、湯は紛れもなく本物。湯船には
茶褐色のナトリウム-塩化物強塩温泉が猛烈な勢いで掛け流しになっており、
床も温泉成分の影響で赤茶色に変色している。おそるおそるつかってみると
ぬるめ適温、湯は強烈な塩味。露天風呂もあり、茶色不透明のとても熱い湯、
しかも湯船からは親鸞聖人像の後姿が見える!ありがたいんだかなんなんだか
わからん!とにかく湯も施設も強烈な個性を放つ「西方の湯」。これまでの
生涯で経験したあやしい入浴施設ナンバーワンとなった。

巨大な親鸞像 あやしげな外観

仏教画が並ぶ館内 露天風呂

露天風呂から親鸞像
さらに北上して村上市に入り、そろそろ腹が減ったなあと思っていたら、
岩船港漁協鮮魚加工直売所というくたびれた市場を発見。哀愁の漂う市場食堂も
ったので焼魚定食を注文。メイタガレイの塩焼きとイカの煮物、タラ汁がついて
1000円。カレイは身がやわらかくほどよい塩味でうまい。タラ汁も魚のうまみが
良くでている。お世辞にもきれいな食堂ではなかったけど、なかなかうまい昼飯に
ありつくことができた。食べ終わってごちそうさま、と合掌すると、どこから
ともなく異臭が。こ、これは、指と爪との間にこびりついているさっきの
「西方の湯」の便所系アンモニア臭だ!しえー!

くたびれた岩船漁港 メタカレイの焼魚定食
岩船漁港からすぐのところに瀬波温泉がある。瀬波温泉の歴史は意外と浅く、
明治37年の油田採掘の際に発見されたらしい。日帰り入浴施設「湯元龍泉」に入って
いくことにした。門構えも上品な和風の施設で、岩づくりの庭園露天風呂がある。
わずかにアブラ系の臭いと塩分を感じる湯でぷよぷよした湯の花も浮いている。
湯元と名乗るだけあってなかなかいい湯だ。ぬるめの温度が気持ちよく、
のんびりと湯浴みを楽しむことができた。奥には源泉で滝がつくられているが、
この滝が激熱。何人もの入浴客が挑んでいってはことごとく敗れ去っていた。
さて、村上市といえば地元で「イヨボヤ」と呼ばれる鮭で有名な町だが、最近は街に
点在する古い町屋を使った町おこしをしているようで、この時期は町屋の
雛人形を巡るイベントが行われていた。マップ片手にたくさんの人が歩いており、
町おこし的には成功なんじゃないだろうか。愛知県足助町でも同様の
雛人形めぐりがそれなりに成功しているが、こういう古いものをつかった
企画で人を呼びこめるんだなあと改めて感じた。

湯元龍泉露天風呂
村上市から今度は南へすすむ。山のほうへ走っていると、また雪が深くなってきた。
関川村にある高瀬、鷹の巣、湯沢、雲母、桂の関の5つを総称した温泉郷である
えちごせきかわ温泉郷のひとつ、湯沢温泉の共同浴場に入っていくことにした。
小さな浴室に小さなタイル湯船。無色透明でわずかな温泉臭、細かい湯の花も
漂っている。とても熱い湯でビシッと温まることができた。とりたてて
個性のある湯ではないけど、共同浴場の素朴さは感じられた。

湯沢温泉共同浴場外観 浴室
ここからまた一気に南下、豊栄市に入り、福島潟というところに行ってみた。
福島潟は、21世紀に残したい日本の自然100選にも選ばれた干潟で、多くの野鳥を
見ることができる。といっても湿地帯なので、田んぼがひたすら広がっているような
フラットランドスケープなんだけど、そこにニョキッと聳え立っているのが福島潟に
関する情報を展示している博物館。設計は建築家・青木淳、日本建築学会作品賞を
受賞した建物で、建築関係者には「潟博物館」という名前で知られているが、実際には
「水の駅ビュー福島潟」という冴えないネーミングを頂戴している。さて、この建物、
逆円錐形のガラス張りで、建物中央部の吹抜を取り巻くように建物外周部にらせん状の
スロープが取り付いて、内部の動線が外部に視覚化されている。中に入ってみると、
まずは動線がわかりにくい。構成は明快なはずなのに、どう動いて良いのかよく
わからない。なんとからせん状スロープの部分にたどり着いてみると、そこは展示室も
兼ねているためもちろん有料ゾーン。この空間が無料ゾーンでも体感できればいいのに、
と思いながら入場料をケチって引き返してきた。この建物の肝である空間を体験する
ことなく帰ってきたので書くことが何もないわけだけど、一点、屋外らせん階段の
支柱が煙突を兼ねていたのが斬新でした。

水の駅ビュー福島潟
もうすっかり夕方になってきた。車を東に走らせると、田んぼにたくさんの白鳥が
集まっていた。きっとここで冬を越したんだろう。そのまま東に走って新発田市に入り、
目指す月岡温泉へ。福祉施設「ほうづきの里」の湯に入っていくことにした。この
「ほうづきの里」、てっきり植物の「ほおずき」からのネーミングだと思ったら、
合併前の豊浦町の「豊」と月岡温泉の「月」をくっつけた名前らしい。ネーミングの
センスはともかく、町の共同浴場より入浴料60円安いからまあいっか。浴室に入ると、
芳しい硫黄臭が鼻をくすぐる。浴槽が3対1くらいに2分されており、大きいほうは
タイル、小さいほうが岩でできている。そこへエメラルドグリーンの美しい源泉が
掛け流し。含硫黄-ナトリウム-塩化物温泉の湯は硫黄臭で苦まずい硫黄味。肌をなでると
ぬるりとする感じもあって気持ちいい。色、臭い、触感、どれも温泉らしい感じで
気に入った。月岡の湯はいいなあ。

ほおづきの里外観 緑色の湯
月岡温泉は大正4年に石油のボーリング中に偶然湧出した温泉。公式ホームページには
スケベな芸者遊びの仕方が堂々と載っていたりして歓楽的な温泉地として知られている。
そんな温泉街の中でひときわ異彩を放つ鄙びた建物がある。大正時代の建物がそのまま
残る湯治自炊専門の木造宿「熊堂屋(くまどや)」。ここが今夜の宿である。
玄関を入るとロビーも帳場もない。普通の民家の玄関やんか!すいませーん、と
呼びかけると中から赤いドテラを着込んだおばちゃんが開口一番、「あら〜、
思ってたより若い人なのねえ〜」と言いながら登場。これがここの名物女将の
おばちゃんだ。この宿の憩いの場・囲炉裏部屋を通り越して建物の奥へすすみ、
2階にあがって今日の部屋に案内された。どんなぼろい部屋に通されるんだろうと
ドキドキしてたのに、案内されたのは最近増築された感じのピカピカの部屋でちょっと
拍子抜け。しかも一人泊だというのに8畳間が2間続きになった広い部屋。
「だってえ〜、一番最初に予約してくれたから一番いい部屋にしてあげたの〜」と
おばちゃん。その場に座り込み、まったく立ち去る気配なし。僕の宿帳を見て愛知県から
来たことを知ると、「私ねえ〜、高校生のとき知多半島行ったことあるんだよ〜」と、
知多半田に5泊して潮干狩りして波にさらわれてひっくり返り、新潟に帰る途中で
伊豆の修善寺に寄ったらバスがなくなって帰れなくなり、一泊5万円の超高級旅館に
3万円まで値切って泊まり、次の日新潟に帰り着いたときは所持金20円で新潟駅長に
タクシー代2000円借りて月岡まで帰ってきたという話を延々と語りだした。
ホント話好きなおばちゃんだ。でもおもしろくて憎めない人なんだよなあ。

熊堂屋外観 玄関のしぶい看板

囲炉裏 部屋
この熊堂屋には大浴場がなく、小さな2つの貸切風呂がある。なんでも月岡の源泉に
一番近いところにある宿らしく、おばちゃんも湯の良さを自慢していた。おばちゃんいわく、
「硫黄の温泉だからねえ〜、タイルがぼろぼろになっちゃうんだよ〜。壁のタイルとか
私が貼ったの〜」。浴室には直径1.5mくらいのかわいらしい円形湯船。そこにエメラルド
グリーンの含硫黄-ナトリウム-塩化物温泉が掛け流し。正統派の硫黄臭に苦くてまずい硫黄味。
けっこう深めの湯にあごまでつかると気持ちいい。まわりを見渡すと、たしかに天井や壁は
いまにも落っこちてきそうに痛んでいる。僕はやさしいので痛んでいるなんて言ってるけど、
普通の人なら汚いの一言で片付けてしまうところだろう。硫黄香る新鮮な源泉に
恍惚状態になりながら湯面を良く見ると、明らかに油の膜が浮いとる!これはすごい!
源泉直近でこの小さな湯船、ここなら月岡で最もフレッシュでピュアなお湯を楽しめるに
ちがいない。月岡の名湯にすっかりご満悦、腹も減ってきたので温泉街に出てみることにした。

浴室 ご満悦!
湯上りに、夕食を食べがてら温泉街を散歩した。新潟といえば魚がうまいのはもちろん、
日本一の米どころでもある。その2つを同時に満喫するならやっぱり寿司でしょ。
一朗鮨という寿司屋に入り、ホタルイカの辛子味噌和えとビールを飲みながら上にぎりを
待つ。上にぎりはマグロ、ウニ、カニ、バイ貝、イクラ、甘エビ、スズキの7種。ネタが
ほろりと崩れた酢飯と渾然一体となる感じがいい。ビールを日本酒に切り替えて
飲み続けていると、テレビで福岡の地震災害を報じていた。中越地震の5ヵ月後の新潟で、
福岡の地震のニュースを見ている。もうどこに住んでいようが地震は他人事とは言えないなあ。
宿に戻り、もうひとつの浴室へ。三角コーナーのような極小の風呂で、湯船が小さい分、
掛け流される湯が熱く感じられた。体が温まると、酒のまわりも良くなって、
すぐに眠りについてしまった。

寿司で一杯! もうひとつの浴室
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