男の旅は一人旅 越後編 3
翌朝、ビシッと朝風呂に入り、7時に宿を出た。「夜は遅くまで起きてるけど朝は弱いの〜」と
言ってたおばちゃんに昨日のうちに宿代を前払いしておいて正解だった。月岡温泉を後にして
南へ車を走らせ、新潟市に合併されることになった新津市へ。新津市といえば石油の町。
かつて日本書紀に「越国から燃土、燃水が献上された」と記述があるくらい、石油の発見は
かなり早かったらしい。明治・大正になると石油王・中野貫一による大々的な油田開発が
行われ、日本一の産油量を誇ることとなる。そんな街にあるのが目指す新津温泉。
到着してみると、くたびれたぼろい建物がぽつんとあり、浴室に入った瞬間、「おおー!」
ものすごい石油臭だ!これはすごい!さすがに「全国アブラ臭温泉マニアの聖地」という
怪しげな異名をもつだけのことはある。小判型の浴槽にうっすら白濁した湯が掛け流し。
泉質は含重曹-食塩泉、コップで飲んでみるとしっかりした塩味が感じられる。臭いの
せいか、肌にまといつくような重量感を感じる湯で、つかっていると酔ってしまいそうな
石油臭が鼻を突く。これがいいのです!ぬるめの温度なのでのんびりとこの強力な湯を
堪能することができた。噂に違わぬ強烈個性派の新津温泉。ここはすごい。

新津温泉外観 浴室
新津温泉をたっぷり体に染み込ませ、体中アブラ臭状態で東へ向かう。五泉市へ入りしばらく
すすむと咲花温泉に到着。阿賀野川沿いに数件の旅館が建ち並んでおり、どこで立ち寄り湯
しようかなーと思っていたら一軒の宿が目に止まった。「湯元館」である。僕にはどうも
この「湯元」という言葉に過剰反応してしまう傾向がある。立ち寄り入浴をお願いすると、
奥の浴室へ案内された。長方形の湯船がひとつあり、うっすら緑色の単純硫黄温泉がざばざばと
気持ちのいい掛け流しになっている。少し焦げたような硫黄臭、飲むとしっかり苦い硫黄味で、
湯口にはレモン色の硫黄成分がこびりついている。バシッと熱めの湯で身が引き締まる
思いだ。大きな窓の外には阿賀野川の雄大な流れ、そしてその向こうには雪化粧した山を
望むことができる。湯も景色もいい咲花温泉、とても気に入った。

湯元館浴室 湯口
さて、咲花温泉からさらに南下、雪深い山道へとすすみ、越後長野温泉へ。ここには
日本秘湯を守る会会員旅館の一軒宿「嵐渓荘」がある。温泉マニアの間では、川にかかる
吊橋越しの渋い外観写真が有名な宿だ。駐車場に車を止め、宿へと歩いていくと玄関に
ついてしまった。オ、オイ、吊橋がないやないか!と思っていたら、庭の奥のほうに川が
あり、吊橋がかかっていた。吊橋を渡ってアプローチするもんだと勝手に思い込んでいたが、
そうじゃなかったようだ。それにしてもすごい雪。庭にはでかいカマクラまでつくってある。
中に入ると渋い外観とは裏腹にきれいに改修されている。川沿いの浴室「真木の湯」に
入ってみると、湯は無色透明、食塩冷鉱泉を加熱しており強い塩味、肌をなでるとつるり感の
ある気持ちのいい湯だ。湯口には白い析出成分がこびりついて成分の濃さを物語る。
昔地元の人が2人怪我をして、1人は町の病院へ、もう1人はこの長野温泉に通ったところ、
温泉に通った人のほうが先に治ってしまったという。療養泉としてもイケてることを証明する
エピソードだ。外に出ると小さいながらも岩の露天風呂もあり、のんびりと雪見風呂を
楽しむことができた。

吊橋 嵐渓荘外観

かまくら 露天風呂
いよいよ震災の中心地・中越へと向かうことにした。越後長野温泉を後にし、長岡市を通り
抜ける。遠くのほうには雪をかぶった山々が見え、越後の春はまだまだだなあと実感する。
小千谷市まで来たところで腹が減ったのでそばを食べていくことにし、「やまぐち」
というそば屋に入った。小千谷のそばが全国的に有名なのは、つなぎに海草・布海苔を
使っているため。有名な伝統工芸の織物・小千谷縮を織る工程で使う布海苔をそばつなぎに
使ってみたところ、ツルツルとのど越しの良いそばができたというのがその発祥らしい。
さらにこのそばを「へぎ」と呼ばれる四角いお盆のような器に盛り付ける「へぎそば」が
中越地方の名物なのだが、どうもこれは1人でちびちび食べるのではなく大勢で食べる
ものらしいので、とりあえず天ざるそばを注文。出てきたそばは見た目はなんの変哲も
ないという感じ。でも食べてみると、たしかによそで食べるよりもツルツル感があるような
気がする。と、隣のおっさんが注文したもりそば、セイロに一口分くらいづつそばが
くるっと盛り付けられててうまそう。なんか悔しいなあ・・・。

山の雪化粧 天ざるそば
上越地方や下越地方の沿岸部ではほとんど見ることのなかった雪が、中越に入った途端に
一気に増えた。住宅の屋根の上にてんこ盛りで雪が積もっていて、みんなせっせと雪かきを
している。小千谷市から十日町市をすぎ、川西町に入って千手温泉「千年の湯」へ。
なかなか頑張ってデザインしてるなあと思わせるまだ新しい木造の施設で、雪国らしく
アプローチには屋根つきの屋外通路「雁木」が設けてある。浴室に入ると、浴槽の湯は目を
見張るような色。濃い茶褐色透明のナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉は、ほぼウーロン茶の
色といっていい。湯は循環も加熱もしない源泉掛け流し、植物系モール臭の強い香りがあり、
まるで海草のような黒っぽい湯の花も漂っている。石で組んだ露天風呂もあり、湯の
ウーロン茶色が一段とはっきりわかる。香ばしいウーロン茶色の湯、これはなかなか
すばらしい。そしてその湯を源泉掛け流しで利用する施設の姿勢も気に入った。

千手温泉外観 露天風呂
この旅最後の温泉に入ろうと、中里村にやってきた。豪雪に負けずがんばろう、という
村の条例「雪国はつらつ条例」を、大手出版社の中学校教科書に「雪国はつらいよ条例」と
信じられないような誤記をされた、あの中里村である。日帰り温泉施設「ゆくら妻有」に
ついてみると、なんだか様子がおかしい。営業中の雰囲気ではなく、どうみても工事中だ。
看板を見ると「ゆくら妻有火災復旧工事」とある。旅をここで締めくくろうと思っていたのに、
これはついてない。っていうか「火災復旧工事」って、かなり心配になっちゃったぞ、ゆくら妻有!
さて、そろそろ帰路につかねばならない微妙な時間になってきた。「ゆくら妻有」に代わる
最後の湯を探しながら津南町の国道117号線を長野方面へと向かっていると、もうすぐ長野県の
栄村、というところまで来てしまった。この旅最後の湯はやっぱり新潟県で締めくくりたい。
もうあと100mで長野県に入っちゃう!というところで見つけた温泉宿・宮野原温泉「宝山荘」に
飛び込んでみた。おそらくここは、長野県にもっとも近い新潟県の温泉ではないだろうか。
看板には「お肌すべすべ掛け流し天然温泉」の文字。これは期待が持てそうだ。宝山荘は
川沿いの小さな旅館で、浴室も浴槽もこじんまりしている。そのタイルの浴槽には黄色透明の
湯が掛け流し、33℃のアルカリ性単純温泉を加熱して注いでいるようだ。熱めに加熱されており、
鉱泉によくある生臭いような温泉臭で味はなし。なんとか最後にもう一湯入れてよかった、
なんて思ってふと体を見てみると「!」。体中に細かい気泡がびっしりとついている。
加熱湯とは思えないほどすばらしい泡付きだ。肌をなで、その気泡を取り去るときの
「つるっ」とする感触が気持ちいい!そしてこの湯、温まり方もすごい。もう少し入って
いたかったのに、汗が止めどなく噴き出してきてフラフラになってしまった。ちょっと
見ただけではなんの変哲もない沸かし湯だが、この泡付き、この温まり。
だから温泉巡りはやめられない。

宮野原温泉看板 浴室
長野駅に戻り、特急しなので名古屋へと帰る。この旅では被災地の一端を垣間見たに過ぎないが、
新潟の温泉は元気を取り戻していた。新潟の人も元気だった。熊堂屋のおばちゃんなんて
元気すぎだった。今回は上越・中越・下越と広く浅く回ってきたが、それぞれのエリアを
もっとじっくり時間をかけて回ってみたいもんだ。というわけで、やり残したことの
多すぎる僕はまた新潟を訪れる気満々である。
男の旅は一人旅へ