男の旅は一人旅 伊予讃岐編 1

愛媛・八幡浜 近代学校建築の傑作・日土小学校へ
5月10日の11時13分、新大阪を出発した夜行バスは、翌朝7時10分、
予定通り愛媛県八幡浜市に到着した。ひさびさの夜行バスで8時間の道のり、
頭がぼーっとした。八幡浜は松山から南西に約1時間、佐田岬半島の付根の街である。
なぜ八幡浜なのか。お目当ては1950年代の小学校建築の名作、日土小学校である。
日土小学校は1958年に竣工した木造2階建のモダニズム建築。設計者の松村正恒は
土浦亀城に師事し、後年は八幡浜市役所で学校や病院の設計に従事した。
松村の代表作・日土小学校は、先ごろ文化遺産としてのモダニズム建築20選
(DOCOMOMO)の一つに選ばれ、一躍その名を知られるようになった。
でもその前にまずは腹ごしらえ。八幡浜は愛媛最大の漁港。港へ行けば
朝飯が食えると思ったんだけど、魚市場はがらんとしていて誰もいない。
水揚げ・競りがとっくに終わってたのか、今日は休みの日だったのか。
うろうろして、ようやくフェリー乗場近くの喫茶レストラン三和に突入し、
朝定食700円をオーダー。メインが塩鮭っていうのにちょっとがっかり。
せめてアジの開きやろー。まあでもタケノコの卵とじがなかなか
よかったので許すことにする。駅前に戻りバスセンターで日土小学校までの
道程を尋ねると、バスで20分の中当が最寄りバス停で便数はかなり少ないとのこと。
うまい具合に8時50分のバスに乗れた。八幡浜は、長崎みたいに港のまわりは
山に囲まれていて、海に向かってぐーんと山肌が迫っている。
その山にぐるりと登って、バスは山奥へ入っていく。みかん畑に囲まれた
川沿いの細い道を20分行くと、中当バス停に着く前の校門で運ちゃんが
「日土小学校だよ」と止めてくれた。

校門を入り、校庭を横切って建物へアプローチ。仕上げは全体的に木+白ペンキ。
木製建具のリズミカルかつ繊細なタテ桟がモッダーンでよい。向かって左側の
教室棟に児童昇降口、右側の特別教室棟に職員用玄関があり、それぞれ
大人と子供のスケールに合わせて庇の高さを変えてるあたりが泣かせる。
教室部分の切妻の瓦は白く塗られており、やるなーという感じ。
土浦ゆずりのバウハウス的な白さを感じさせる。一方廊下部分の金属板葺の
片流れ屋根は軒先が異常に薄く、ひらりと軽い。軒裏もきれいに仕上げていて、
一枚の面としての屋根が意図されている。妹島やコールハースがスラブを
折り曲げてスロープ状の床を構成しているように、(床スラブという要素を
再考することでドミノシステムの新たな展開を模索しているという意味で)
現在の建築デザインの大きな関心事の一つは床にあるように思われるが、
50年代のデザインの関心は間違いなく屋根・天井にあったと思う。
本場西欧モダニズムのフラットな屋根に対し、雨が多く防水技術も発展途上の
日本で、特に木造や鉄骨造の屋根をどうやってデザインしていくのか。
屋根を薄く軽くして消していくのか、日本的なるものとして、あるいは
ヴォールトや折版といった構造表現主義として見せていくのか。
50年代建築の屋根はなかなか興味深い。
さて、学校建築の見学はなかなかむずかしい。平日は授業をやってるから
見学不可、土日は先生も生徒もいなくて中に入れない、なんてことが
往々にしてある。この日は土曜日、建物内の見学は無理かなと思っていたが、
日土地区で「みかんの花まつり」というのをやっていて小学校がその
受付会場になっているらしく、幸運にも職員室で若い先生が一人で
番をしていた。見学を申し出ると、自分はこの場を離れられない、
鍵を開けるので勝手に見て下さいとのこと。遠慮なく見る事にした。

まずは明るい児童昇降口へ。下駄箱を床面から浮かせているあたりが憎い。
続いて教室へ。廊下と教室との間には通風・採光のための光庭が取られ、
水路がつくってあって金魚が泳いでいる。両側採光された教室は、
光庭によって廊下と切り離された独立感がよい。外を流れる川に面した外壁は
柱の外側に設けられたガラス面で、構造体から独立した「自由なファサード」を
構成している。そこにバシッとブレースが入っているところが潔く、50年代的でよい。
階段を見る。勾配が非常に緩やかで登りやすい。寸法を測ると、蹴上120、
踏面360の親切設計だ。これからの階段もこうでなくっちゃ!2階は廊下と教室の間の
光庭の両サイドに数段の階段があり、教室・廊下の空間分離がよりいっそう
はっきりしている。光庭まわりは低いベンチ状で、座ったり物を置いたりできる。
教室から川側の階段に出てみる。鉄棒でできたすけすけの階段で、下の川が透けて
見えている。かなりよい。久々に感動的な建築を見た。◎。
特別教室棟へ移り、小さな図書室のような部屋へ(室名忘れた)。まいった。
天井と壁に銀色のもみじわの紙が張ってある。堀口捨己級。小学校とは思えない
渋いデザインだ。そしていよいよ斜めの3本柱で支えられたテラスへ。
川音が聞こえてきて気持ちいい。屋根もふわっと軽い。音楽室を見てから
もう一つの階段へ。階段・手洗場・張り出した倉庫の関係がよい。
職員室に戻ると、先生に見学アンケートを依頼された。DOCOMOMO入りしてから
見学者が増えたらしい。現在の生徒数は83人。平日は授業中でも
見学させてもらえるらしいが、ふだん土日は誰もいないので
ほんとにラッキーでしたねといわれた。
お礼を言ってもう一度外に出る。教室棟と特別教室棟の間に便所があった。
男女の区別がないに等しく思いきった計画。しばらく対岸のみかん畑に不法侵入し、
川側の外観を撮影。ほんとにまわりはみかん畑ばっかりだった。
近代建築は普遍性を追求するあまり身体性や地域性をないがしろにしたと
批判されてきた。でも子供と大人のスケール感を使い分け、
川沿いというコンテクストに最良の解答を出していたモダニストがこんなとこにいた。
そんなこんなでバスが来た。八幡浜駅に戻ると次の電車まで待ち時間があったので、
駅から徒歩5分の江戸岡小学校へ。これも松村の設計。校門側は屋根薄いけど
別に普通かなーと思ったけど、校庭側ファサードの木サッシの
きれいな縦のラインは日土を彷彿とさせた。
駅まで戻ると特急宇和海が到着。30分かけて内子に向かった。

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