男の旅は一人旅 伊予讃岐編 3
西条→丸亀→琴平へ
松山から1時間、伊予西条駅に到着。西条は水の都だ。いたるところから水が湧き、
水路が流れ、水音が聞こえる。駅のホームにも泉が湧き、線路に掛け流し(?)になっている。
目指す光明寺までは駅から徒歩で15分。地元のおばちゃんに教えてもらってなんとか
コンクリート打放しのヴォールト屋根を発見した。
光明寺は安藤忠雄の設計で、既存の寺を建替えたデザイナーズテンプルだ。
門は既存のものを残してあり、2本セットになった垂木がリズミカルでよい。
門をくぐると本堂がみえる。既存の鐘楼と池を挟んで向かい合う本堂は、
見附150の集成材とガラスが交互にファサードを構成しており、縦の線だけで
単純に構成されたファサードが美しい。垂木を4手重ねて3600の片持ちで
軒を張り出したおおらかな屋根は、軒先の線と垂木しか見えない。鈴木博之はこれを
「日本の軒はいいけど、屋根はいらないという判断」と、切れ味のいい分析をしている。
雑誌で見た時はプロポーションが変だと思ったが、来てみるとそれほどでもなかった。
外部の木がとてもきれいで何を塗っているか気になった。木造の本堂以外の
RCの建物群は安藤忠雄らしい感じであまり関心がなかった。安藤の打放し面は
ぬるぴかしてウソ臭い。突然鐘の音がして、こんなとこに競輪場はないはずなのに、
と本気で思ったが、堂内で法事をしていたようだ。
玄関らしきところに「拝観は14時から16時」とある。いまは10時だけど
法事は終わったようだしいいかな、と思ってインターホンを押すと、
今は拝観時間じゃないので、14時まで時間つぶして下さい、と言われた。
お願いだから見せてくれと食い下がると、おばちゃんが出てきて
「ほんとはだめなんだけど」を連発しつつ、しぶしぶ中に入れてくれた。
お堂の周囲の廊下は明るくて、木の竪格子が床にストライプの影をつくり、
その向こうに池が見えてきれいだった。もっと水面のゆらゆら感が内部の天井に
反射して…、みたいな感じかと思ったらそうでもなかった。外壁の足元に部分的に
縦軸回転窓がついてて、ない方がいいのにと思った。外からは見えないが、
内部の天井から本堂の屋根中央部はヴォールトになっていることがわかる。
その天井は415角の集成材を4本セットにした組柱4本で支えられている。この本堂、
天井高さに対して照度が明るすぎて落ち着かないと思った。古建築の天井の高い大寺院は、
内部が暗いからそれなりに落ち着いた空間になってるし、本尊にもありがたみがある。
でも堂内を明るくして構造を見せたいという気持ちはわからないではない。
帰りに学生さんですかと言われて、設計の仕事をしてる、これを見に
名古屋から来たというと、それじゃーなおさら拝観時間を調べてきてもらわないとね、
とピシャリと言われた。「どの雑誌にもにも拝観時間は書いてないんだけど、
そういうのはどこで知ればいいんですか」と聞くと、
「最近安藤先生がお書きになった本にも書いてあるし、あとうちのホームページにも」
と返された。安藤忠雄の文章なんて読むわけないとして、HPは来る前に
一度アクセスしていた。その時は場所の確認が目的で、にぎやかなサイトやなー
と思ったくらいで時間までは見てなかった。うかつだった。デザイナーズテンプルでは
拝観時間をHPでチェックすべし。いい勉強になった。
伊予西条駅に戻り、観音寺競輪の出走表を発見し心が動いたが、
初志貫徹、丸亀へ向かうことにした。
伊予西条から特急いしづちで1時間。香川県丸亀市に着いたのは12時すぎだった。
香川県に突入し、もううどんしか食べないと決めてたのでさっそく駅前のうどんや将八に
入ってしょうゆうどん300円。うまい。幸先がよい。もう一軒、と思って
駅前をうろうろしたが、日曜ということもあって他に営業中のうどん屋は見つからなかった。
もっとしっかりせえよ丸亀市。しょうがないので猪熊弦一郎現代美術館へ。
いわずとしれた谷口吉生の名作である。駅前広場とゲートプラザが一体になった感じが
よいが、思ったよりでかいと思った。中に入ると子供のためのデザイン展をやってて、
館内がやかましい。なるほどふむふむという感じで館内を一周。トイレもチェック。
ブースが無垢の石だったぞ。外観はでかいと思ったけど、展示を見てると
「あれ、もう終わり?」という感じだった。屋上のカスケード広場に出て、
トップライトから光の落ちる階段を降りていく空間がなかなかきれいだ。
この階段は降りる方向に向かってパースが効くようになってて、ということは
ミケランジェロの図書館みたいに反対に見上げると逆パースになる。
一部のスキもない建築なんだけど、ゲートプラザ以外、どういうわけかこれまで
谷口建築で感じたような胸踊る感覚がなかった。豊田や法隆寺を見た後だからだろうか。
でも駅前広場という都市空間と建築との良好な関わり方を提示してて、
名建築であることは間違いない。うどん欠乏症のうさは十分に晴らせた。
今回はわりと早足で回ったが、またガイド本片手にゆっくりとミリ単位で
ディテールの隅々まで堪能しに訪れたい。できればうどん店が営業してる平日に。
さて、猪熊つながりで高松に行って香川県庁舎としゃれこむつもりだったが、
庁舎は土日休業ということで予定を変更。急遽琴平へと向かったのだった。
琴平駅に到着したのは2時半。レトロな駅だ。小腹が減ってたのでうどん屋を探した。
まず一軒目。あいめん屋に突入。生しょうゆうどん250円。ちょっと腰がたらんなぁ。△。
次はうどん屋川せみ。エビ、イモ、シイタケの天ぷら付でざるうどん200円は安いけど、
腰が抜けてるなー。日本一うまいって書いてあったんだけどなぁ、△。これで2連敗。
腹ごなしに金毘羅さんにお参りすることにした。奥の院まで行くと多分生きて帰れないので、
とりあえず本殿まで行く事にした。これでも十分死にそうだったが、石段地獄を克服して
なんとか到達。そこには讃岐富士の麓に広がる讃岐平野の絶景が待っていたが、建築的には
運悪く拝殿の屋根を葺き替えていた。帰りの参道でさぬき地ビールを飲んだ。
すべてが報われ、うどん屋で喫した連敗を2で止めた。あとは一風呂入ればいうことなし。
ここ琴平には、歴史の新しい温泉・こんぴら温泉が湧く。四国最大級のホテル琴参閣の
大浴場にしようかと思ったが、15時半までとのことなのであきらめ(後で知ったんだけど、
最近は夜まで入れるらしい)、参道の旅館「万よし」に立寄り入浴した。料金は700円。
おばちゃんがタオルを貸してくれた。
先客は誰もいなかった。脱衣所に「この湯の成分は石鹸が泡立ちません」と貼紙があり、
分析表によるとナトリウム・カルシウム・塩化物泉。黄緑色のタイルが貼られた、
どっかの家みたいなこじんまりした浴室には、海のにおいが漂っていた。
湯口の湯をなめると海水系の味だった。いい湯加減で、汗をかいた後なので
すごく気持ちがいい。ごろごろとせまい浴槽を一人占めした。下手に混んでる
大ホテルにいくより正解だった。
湯上り後、母親から怪メールが届いていた。昨日は母の誕生日、今日は母の日だから
何かくれ、とある。急遽土産物屋でうどんと乾燥ワカメを買い求め、実家に発送した。
気がつくと、湯に入る時借りたタオルを持ってきてしまった。このタオルは未洗濯で
自然乾燥状態のまま所持しているが、いまだに海水のような匂いがする
(この源泉の匂いつきタオルを集める事に密かにはまっている。とくに硫黄臭のするタオルは最高だ)。
17時27分、琴平駅から特急南風で1時間かけて岡山へ。岡山からは新幹線で名古屋へ向かう。
建築と温泉については有意義な旅だったが、宇和島方面や四国カルストを攻めていないし、
うどんで失敗しているのが痛すぎる。やり残したことの多すぎる俺は、
まだまだ愛媛香川を訪れる気満々である。おわり。
男の旅は一人旅へ