男の旅は一人旅 上越編 1

3月に土日祝日返上で大仕事を2つ終わらせた俺。肉体的にも精神的にも疲労のピークにある
自分自身を自らねぎらうため旅に出ることを決意した。温泉に入り倒して、
疲れ病んだ心身を健全な状態に回復させるという主旨である。
4月上旬というと桜前線が徐々に北上を続ける季節。そんな時期に
雪見風呂というのも悪くなかろう。というわけで、2日間の有給休暇を取り、
春まだ遠い群馬に向けて高崎行きの夜行高速バスに乗り込んだ。

草津温泉バスターミナルに降り立ったのは朝の8時半。これから草津の共同浴場を
倒れるまではしごする朝風呂企画に出発だ。まずは喜美の湯に入湯。
小さな唐破風の付いた小さな湯小屋で、まだ誰もいなかった。コンクリートに白ペンキ、
縁だけ木の浴槽にほんの少し緑がかった透明な湯が満たされている。
ややぬるめで硫黄臭はほとんど感知できず、酸味ありという湯畑源泉の標準的な湯で、
なかなか気持ちの良い目覚めの湯となった。
この調子でどんどん行こう、と思ったのだが、この朝の時間帯、7時半から
11時半くらいまで、草津の共同湯は清掃時間で入れない所がけっこうあった。
とんだ計算違いだったが入浴可能なところから絨毯爆撃のように突撃していく。
温泉街から少しはずれたところにある恵の湯。清掃時間のため入れないという張り紙があるが、
もう誰か入っているようなので突入してみた。無色透明な熱めの湯が
たっぷり掛け流しになったコンクリート浴槽につかると、肌にピリピリと刺激がくる。
酸味も強く、肌が融けたようにつるつるする。ここは草津で最も酸性度の強い
万代鉱源泉を使用しており、さっきの湯畑源泉とは一味ちがう。さらに良い目覚めの湯となった。
このあと湯畑源泉の共同湯として白嶺の湯、長寿の湯、睦の湯、
万代鉱源泉の共同湯として町営住宅の湯、躑躅(つつじ)の湯に入湯。
中でも長寿の湯は床に木のスノコが敷いてあるところが好感が持て、
細かい湯の花の舞う白濁した湯は湯畑源泉の中でかなりコンディションの良い湯だと思った。
これだけ入ってすべて無料。毎月300円の管理費を出し、
毎朝当番制で風呂掃除をしている地元の人々に感謝したい。

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喜美の湯           長寿の湯

昼近くなり、草津のシンボル・湯畑へ行ってみた。豪快に流れ落ちる湯滝、立ち込める硫黄の臭い。
臭いや音、熱などにより様々な感覚機能を刺激してくる非常にアグレッシブな風景だ。
この湯畑で、偶然、湯の花採取の珍しい風景を見ることが出来た。
木製の湯樋に布が仕込んであり、湯の花がたっぷり付着したその布を回収している、
ように見えた。この湯畑純正湯の花は草津町が採取権をもっており、
プラスチックの容器に入れられて1500円で販売されている。とりあえず
上司のために一つ買っておいた。昼ごはんは湯畑から近いラーメン屋「天よし」で
ラーメン・ギョーザ・ビールの3点セットを注文。ギョーザのニンニクとニラの利かせ方がよく、
手打ちの太い麺もなかなかよかった。
食後の散歩に西の河原に向かった。西の河原は熱泉や蒸気が噴出し、
草木も生えない地獄である。その奥に西の河原源泉を使った西の河原露天風呂がある。
500円払って入ってみると、岩を組んだ広い露天風呂になっており、
それを板塀がぐるりと取り囲んでいる。一度に200人くらい入れるのではないだろうか。
上流の方から熱い源泉が注がれ、下流でざあざあと掛け流しになっている。
下流のほうで温度が程よく下がった湯につかってみた。無色透明で硫黄臭はとんでおり無臭、
なめると酸味がある。湯船の広さがあだとなって源泉の個性が薄れていることは否めないが、
まわりの山には雪が積もっており、開放的で気持ちの良い湯だった。
西の河原からの帰り道、草津名物・温泉まんじゅうをすすめるおっちゃんに遭遇。
店先でお盆にできたてのまんじゅうをのせ、観光客にどんどん渡していく。
同時にもう一人がお茶の湯飲みを渡す。試食というには配りすぎのような気がするのだが、
とにかく太っ腹なおっちゃんなのだった。

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湯畑             西の河原露天風呂

草津を十分堪能すると、バスで長野原草津口駅まで行き、吾妻線に乗り換えて
万座鹿沢口駅で下車。ここでまたバスに乗り換えて今日の宿泊地・万座温泉に向かう。
万座へ向かう道すがら、真っ白に雪化粧した浅間山を望むことができた。
しばらくすると今度は白根山系。美しい山に見とれているうちに万座バス停に到着した。
バス停から歩いて今日の宿・湯の花旅館を探す。看板は見つけたものの、
矢印の先には雪の丘があるだけで道がない。宿に電話をしてみると、
これから迎えに行くというのでしばらく待ってみた。するとものすごいエンジン音と共に
スノーモービルに乗った宿のオヤジが現れた。「後ろに乗ってください」「はい・・・。」
えらいとこに来たと思った。
スノーモービルで2分ほど走ると湯の花旅館に到着。急勾配の切妻屋根が印象的な
黒ずんだ木造の宿だ。自炊や半自炊で長期滞在する湯治客も受け付けているが、
俺は一泊二食8000円の料金で利用する。玄関を入るとたくさんのスキーがおいてあり、
囲炉裏の休憩所もあった。古い木造でそこかしこにガタがきている。部屋は6畳の和室。
コタツとテレビがあり、入口には鍵がない。窓の外には雪が積もりすぎて何も見えなかった。
さっそく風呂に入ることにした。まずは内湯。木造で湯治場の雰囲気満点の浴舎。
木の湯船には万座らしい真っ白な湯が満たされている。ここの内湯は
「さるのこしかけ湯」といって、源泉をいったん「さるのこしかけ」の入った浴槽に通し、
それを湯船に注いだ薬湯となっている。万座は源泉温度が高く、多くの宿では
加水して温度を下げているが、ここは水一滴加えることなく、浴槽に注ぎ込む量を調整して
適温に落としている。湯につかるとややぬるめ。さるのこしかけ槽からの湯口の弁を調整して
源泉流入量を多くすると、どんどん熱くなってきた。硫化水素臭は万座特有の鼻を刺すような
強烈なものではなくほんのりと上品で、俺にはちょっと物足りない。
飲泉すると酸味が感じられた。体が温まったところで露天風呂へ。
岩作りの小さめの混浴露天風呂。まわりには雪が積もっておりさすがに寒い。
青白い湯にざぶんとつかるとこれがぬるい。ぬる湯好きの俺でもこれはぬるすぎると思った。
冬はもう少し源泉流入量を増やすべきだろう。しかしこの雪景色の中、
のんびりとぬる湯につかるのは最高に気分がよかった。

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湯の花旅館          雪見の露天風呂

風呂から出て食事。囲炉裏の食事処には山菜を中心とする質素な山の料理が並んでいた。
俺の他に飯を食っていたのは隣の部屋のおっさんと赤ちゃんを連れた女性一人だけだった。
山の中の湯治場に来て豪華な食事など期待していない。こんなもんだろ、と思いながら完食。
もう一度風呂につかって寝た。
翌朝、朝風呂に行ってみると露天の湯は風邪を引きそうなくらい温かったので、
内湯でじっくりとあたたまった。朝飯は食堂に用意されており、シンプルでなかなかうまかった。
食堂や廊下の壁にはこれまで訪れた有名人の写真や色紙がたくさん貼ってあった。
三井ゆりや菅井きんに混じって、清水章吾(アイフルのCMで子犬に心つかまれてる人)が
訪れていたのが泣かせると思った。しかもフロントで清水章吾と宿の主人の
温泉対談のコピーも入手できた。渋い。
スノーモービルと車でバス停まで送ってもらう道すがら、宿の人に話を聞いた。
万座の湯は皮膚病や糖尿病などに特効があり、夕食のとき見かけた女性もアトピーの治療で
湯治に来ているらしい。夏はほとんど湯治客になり、昼は草津や志賀高原で気分転換、
夜は温泉療養という生活を1ヶ月近くおくる人もいるという。
バスに乗って万座鹿沢口駅に到着。まずこの日の一湯目、ガイドブックには
紹介されていない秘湯を探して歩き出そうとしたが、地図にも載っていないその場所を求めて
どちらへ踏み出せばいいのかわからず、呆然と立ち尽くした。

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