男の旅は一人旅 上越編 4
川古温泉からタクシーとバスを乗り継いで、猿ヶ京三国温泉郷の最奥、
法師温泉の一軒宿・長寿館に着いたのは10時すぎだった。長寿館は湯治場情緒を色濃く
残す木造の宿。JRのポスターに使われたり、テレビや雑誌で紹介されたりして、
宿泊も日帰り入浴もすごい人気だという。かくいう俺も実は長寿館に泊まりたかったのだが
満室で予約が取れず、急遽宿泊地を川古温泉に変更した経緯がある。
日帰り入浴の受付は10時半。俺は前から2番目の位置をキープして並んだが、
10時半が近づくにつれてどんどん行列が長くなっていく。しまいには団体のツアー客がやってきて、
行列は50人近くなっていた。こうなるともう途中で人数制限が始まるから
多分後ろのほうの人は泣く泣く帰されることになる。早く並んでおいて正解だった。
それにしてもこれほどの人気とは・・・。

大人気の法師温泉・長寿館
10時半になると入浴料800円を払い、一目散に浴室・長寿の湯へ。
木造の鄙びた浴舎で、壁面にはアーチ窓が並び、4つに切られた湯船には1本づつ
丸太の湯枕が渡され、その底には玉石が敷かれている。なんだか四万温泉積善館・元禄の湯を
和風にしたような感じだ。(もちろんつくられたのは長寿館のほうが古いんだけど)。
透明な湯に入るとぬる目で肌にやわらかい。それもそのはずで、この長寿の湯は
湯船の底に敷き詰められた玉石の隙間から気泡とともに源泉が湧きだしている貴重な
足元湧出の湯なのである。源泉のうえに湯船をつくったという感じで、
生まれたての源泉にひたることが出来る。たまに湧き上がってきた気泡がころころっと
背中をくすぐるのが気持ちいい。40℃くらいだろうか。ぬるめで
いつまでも入っていられる温度だ。丸太の枕に頭を乗せて周囲の空間やディテールを
観察していると感慨深いものがあった。この浴室は混浴なので、
女性専用の浴室に行ってしまうおばちゃんも多数見受けられたが、
ここまできてこの長寿の湯につからないとはもったいない。バスタオル巻きは
容認されているので、女性でも勇気をもってこの湯につかってみるべきだと思う。
名残惜しいが30分ほどつかったところであがった。フロントの横でタクシーを
待っていると続々と日帰り入浴客がやってきて、そのたびに今混雑中ですので、と
入浴を断られていた。大人気の湯なのに温度がぬるくて1、2時間は
平気で長湯できるから入浴客の回転が悪い。ここの立ち寄りは早い物勝ちだ。
今度はぜひ宿泊で利用し、この湯をじっくり堪能したいと思う。
タクシーで猿ヶ京温泉まで戻り、一風呂浴びることにした。
日帰り入浴施設・猿ヶ京温泉センターは、昔からあった古い施設を近年和風に
改装したといった趣。受付で確認すると内湯は循環だが露天は源泉掛け流しだという。
服を脱ぎ、内湯を素通りして露天へ。外に出ると方形の屋根の下にガラス戸で囲まれた
木の湯船があった。ガラス戸を全開にすると露天風呂になります、ということだろうか。
その空間に足を踏み入れるとなんと湯船のまわりはビニールの畳敷きになっていた。
湯はなかなか熱め。ナトリウム・カルシウム−塩化物・硫酸塩泉で、臭いも味も
ちょっと土臭い感じで茶色っぽい色の細かい湯の花も確認できた。
じっくりあたたまってあがったが、ここは湯船のまわりの畳がいただけない。
畳に水がたまって冷たかった。湯上りにところてんのサービスがあるが、
遠慮して昼食を食べるところを探すことにした。
群馬を代表する食べ物というとやはりうどんということになるのだろう。
特に有名なのは讃岐、稲庭とならんで三大うどんと言われる水沢うどんだが、
桐生や館林も有名なうどんの産地だし、各地にはうどんに似た「おっきりこみ」という
郷土料理もあり、群馬は粉食文化が発達している。温泉街にあるうどんやでざるうどんを食べた。
コシのコの字くらいはあってぼちぼちの味。食べ終わるとバス待ちの時間でもう一湯。
うどんやの近くの旅館三河屋で立ち寄り入浴。分析表を見ると源泉名に「村有一号」とあったが、
これは猿ヶ京温泉センターと同じ源泉である。が、土臭い臭いや湯の花は観察できず、
大量加水が考えられた。ちょっとはずれだったなーと思いながら内湯と露天につかってあがった。

猿ヶ京温泉センター 三河屋旅館
猿ヶ京からバスに乗り、湯宿(ゆじゅく)温泉バス停で衝動的に下車。
次のバスの時間を確認し、旅館・湯本館で立ち寄り湯をお願いした。
大浴場は直径5mくらいの大きな円形の湯船があり、そこに満たされた湯は少し黒ずんで見えた。
ナトリウム・カルシウム−塩化物・硫酸塩泉で、泉質だけ見れば猿ヶ京と同じだが、
ここの湯は激熱でほんのり塩分が感じられ、湯の花はなく、真っ白な石膏成分が
カビのように析出してこびりついていた。この浴室は混浴で、中年夫婦が入っていたが、
おばちゃんのほうは熱すぎたようですぐあがってしまった。我慢して入り続けていたので
とてもあたたまり、きりっと身が引き締まるような湯だった。

湯本館の丸い浴槽
バスで後閑駅まで行き、上越線に乗り換えて渋川へ。渋川駅からバスで
この旅最後の温泉地に向かった。草津、四万と並ぶ上州三名湯の一つ、伊香保温泉である。
バスターミナルで下車すると、有名な石段街をめざして歩いたが、サイン計画がまずく、
少し迷ってしまった。冷たい風が吹き付けてくる。上州名物は「カカア天下とからっ風」
というくらいで、風はやたら強い。やっとのことで石段街にたどりつくと、
あまりの寂しさに焦った。日曜日の夕方ということもあるのだろうが、これが群馬第二の
温泉地かと思うほど観光客もまばらで、営業していない店も多く、哀愁すら漂っていた。
とりあえず温泉街から少し外れた伊香保温泉露天風呂を目指して歩いた。
途中の飲泉所で湯を飲んでみる。伊香保の湯はナトリウム・カルシウム-
塩化物・炭酸水素塩・硫酸塩泉で鉄分を多く含む。ひしゃくですくって飲んでみると
金気臭、金気味。塩分と渋みも少し感じられた。飲泉所から露天風呂まではすぐだった。
400円払って中に入る。コンクリートのU字型の浴槽で中央部分に植え込みが作ってあり、
熱湯とぬる湯の2槽式になっている。緑がかった茶褐色の湯は飲泉所のものよりは金気が
感じられなかった。もう少し個性の強い湯だと思っていたが、拍子抜けしたというのが
正直な感想だ。分析表には混合泉とあったので、さっき飲んだ湯と2号源泉を混ぜて使っているようだ。
露天で温まって温泉街まで引き返し、石段の最下部にある共同湯・石段の湯に入湯。
こぎれいな和風の施設で、浴室はタイル張り。緑がかった薄茶色の湯があふれていたが
ここも混合泉で臭いや味はほとんどなかった。かなり期待してきたのでちょっと肩透かしを
くらったようだった。今度は自家源泉をもっている旅館の湯を味わってみたいと思った。

石段の続く伊香保温泉の町並 赤茶色に変色した飲泉所
バスで渋川へ戻り、電車に乗り換えて高崎へ着くと、あたりはもうすっかり暗くなっていた。
高崎でのお目当てはアントニン・レーモンド設計の群馬音楽センター。DOCOMOMOにも
選出された近代建築の名作とされている。DOCOMOMOにおける劇場ホール建築には
この群馬の他に神奈川県立音楽堂(設計・前川國男)があるが、俺は常々
群馬を選ぶくらいなら同じく前川設計の東京文化会館あたりが選ばれてしかるべきだろうと
思っていたので、群馬がいかほどのものが見届けたかった。
音楽センターへ行って見るとなんだか様子がおかしい。建物全体が足場で覆われている。
どうやら改修中のようだ。もちろん当分の間閉館。運が悪いと思っていると、
音楽センターのすぐ横で川に沿って桜並木が満開になっていた。どうやら花見の名所のようだ。
建物は見れなかったが、雪見風呂の旅を桜で締めくくるのも悪くない。最後にちょっとすくわれた気がした。
さて、今回の旅で心も体も十分に癒されたようだ。
群馬には今回行けなかった名湯がまだまだたくさんありすぎる。おっきりこみも
水沢うどんも食べていない。やり残したことの多すぎる俺はまだまだ群馬を訪れる気満々である。おわり。
男の旅は一人旅へ