男の旅は一人旅 宮崎鹿児島編 1

永遠の温泉旅人を自負してきたこの僕が、2007年に一度も一人旅をしていないことに
気づいてしまった。まあそんなこと前々から気づいてたんだけど、もうそろそろ
どげんかせんといかんなあと思っていた2008年2月のとある月曜日、突如鹿児島への
出張を命じられた。その週の金曜日に、現在鹿児島で進行中のプロジェクトについて
市と打合せしてこいという指令だ。金曜日に鹿児島出張とはまたとない好機、この
タイミングで一人旅行っとかなあかんでしょ、という訳で、仕事の資料を迅速に
作成する一方、土日の温泉スケジュールを超迅速にまとめあげた。

2月22日、朝イチの飛行機で鹿児島へ飛ぶとさっそく鹿児島市役所へ入り、設計中の
建物について各担当課との打合せを順調にこなしていく。なにしろ早く仕事終わらせて
温泉に行きたいんだから必死だ。超高速で役所での仕事を済ませると、とりあえず市役所から
徒歩2分のところにある温泉銭湯「かごっま温泉」で一風呂浴びることにした。鹿児島市は
鹿児島市内温泉が湧き、温泉銭湯が50数ヶ所もあるという日本有数の温泉都市である。
かごっま温泉もそんな温泉銭湯のひとつで、多分「かごしま」が訛ったネーミングだと
思われるがその外観からB級感がプンプン漂っており、中に入るとそれを裏付けるように
演歌の有線がかかっている。浴室に入ると中央にタイル湯船、黄色透明な湯が満たされて
いる。ざぶんと湯につかると「あ”〜」、感嘆の声が漏れる。やっぱり一仕事終えた後の
温泉、しかも勤務時間中の入浴は格別だ!そしてこのかごっま温泉の名物が「塩湯」。
湯船の縁に置かれた塩を体に塗ってつかるらしい。塩サウナというのは聞いたことが
あるが、塩湯というのは初体験。塩をすり込んでみると、皮膚がヒリヒリ。激務の疲れを
塩で刺激的に癒すことができた。


かごっま温泉・塩湯

風呂から上がると遅めの昼食を取ることにした。訪れたのは鹿児島ラーメン「のぼる屋」。
かなり古い歴史をもつラーメン屋との事前情報を超越する鄙びた外観で、どうみても
普通の民家なのだがのれんでかろうじて入口が認識できた。中に入ると、カウンターのみの
せまい店内、おばちゃんが4人ほどいてラーメンを作っている。メニューは1000円の
ラーメンのみ、席に着くと注文しなくても自動的にラーメン作りが開始される。大盛りの
大根浅漬けをポリポリ食べながら待つことしばし。出てきたラーメンは黄色っぽい透き通った
スープに、いかにも手打ちらしいちゃんぽんのように太くて白っぽい麺、その上に野菜や
焼き豚が乗り、おろしにんにくをトッピングしていただく。鹿児島ラーメンというと豚骨の
濃いイメージを持っていたが、食べてみるとあまり豚骨が強くないあっさりめの塩味と
いった感じのスープでなかなかうまい。食べ終わるとおばちゃんがおみやげの袋をくれた。
中にはミカンとボンタンアメと桜島の生写真という渋い3点セット。おばちゃんが客全員に
どこから来たのか聞いていたので、多分県外からの客にお土産を渡していると思われる。
こういうのはなんだかうれしい。とりあえず食後にさっそくミカンを完食した。


のぼる屋の渋い外観      ラーメン

さて、実はまだもうひとつ任務が残されていた。建設予定地に立てられている計画内容告知の
看板を修正するという10分くらいで済む重労働だ。さっそく現地に赴き、ちゃっちゃと仕事を
終わらせるとそこから徒歩5分ほどのところにある温泉銭湯「竹迫温泉」で労働の汗を流す
ことにした。銭湯に近づいてくると、道路の側溝からモクモクと湯気があがっとる!
創業100年以上という歴史を持つ温泉銭湯である竹迫温泉は、いかにも古めかしい渋い外観。
番台のおばちゃんにお金を払って中に入ると、浴室には年代モノのタイル湯船、そして装飾の
施された石づくりの湯口が渋い。ザバザバ掛け流される塩化物泉の湯は弱い塩ダシ味で少し
つるりとする触感。やっぱり激務の後の温泉は最高だ。


竹迫温泉外観         渋い湯口ディテール

竹迫温泉を出るともうすっかり夕方になっており、市内中心部に戻って駅前ホテルにチェックイン。
しばし昼寝の後、夜の街へ繰り出した。まずは鹿児島中央駅から徒歩5分ほどの温泉銭湯
「みょうばん温泉」へ。おそらく中央駅から一番近い温泉だろう。こういう交通拠点の直近に
ある温泉は旅行者にはありがたい存在だ。みょうばん温泉は古い鉄筋コンクリートの建物で、
浴室には温度の異なる楕円形の湯船が3段に連なっている。湯は弱い金気臭と薄い塩味を
感じるつるりとするもの。じっくりと温まり、洗面器を枕に温かいタイルの床に寝そべると、
背中を洗うように流れ去っていく掛け流しの湯が気持ちいい。


みょうばん温泉外観       浴室

みょうばん温泉からの帰り道、ふらりと立ち寄っためし屋で夕食。さつまあげとカツオたたきを
肴になめるように芋焼酎のロックをちびちびと飲む。鹿児島に来たなぁ〜って感じだ。
しみじみと焼酎を飲んだあとは「ざぼんラーメン中央駅店」で締めのラーメン。濃い豚骨スープに
野菜たっぷり、焼きネギがいい味だしてる。ガッツリと腹を満たしたところでホテルに戻り、
翌日に備えて就寝。なんせこの九州遠征は明日からが本格始動なのだ。


さつま揚げ、カツオたたきと芋焼酎


ざぼんラーメン

翌朝、レンタカーを借りて出発!まず向かったのは鹿児島中央卸売市場。魚市場の食堂で
とれたて新鮮な魚の朝飯を食べていくことにしたのだ。市場内の「新港食堂」という食堂に
入ると、プレート付きの帽子をかぶったたくさんの仲買人が朝飯をかきこんでいる。ホワイト
ボードに書かれた今日のおすすめの中から首折れサバ刺身定食を注文。首折れサバは、水揚げ
してすぐに首を折ったゴマサバのことで、特に屋久島のものが知られている。生きたまま
首を折るとサバが脳死状態になり、鮮度が落ちないのだ。でてきたサバはピカピカに光っており、
醤油につけるとサーッと溶け出す脂に感激、身はプリプリで弾力があり新鮮そのもの!うまい!


新港食堂           首折れサバ刺身定食


つやつやのサバ刺身!

朝食を済ませて鹿児島市から北西方面へ、最初の目的地・諏訪温泉へと向かう。オレンジの
瓦が印象的な建物とは対照的に浴室はかなり渋い。半円形の湯船が激熱湯、熱湯の2槽に
仕切られており、そこにものすごい勢いで源泉がドーッと掛け流し、湯船から溢れた湯が
どんどん流れ去り、湯船や浴室の床は温泉成分で赤茶けてしまっている。炭酸が香り、塩分と
金気分を感じる存在感十分な塩化物泉で、小さな熱湯はビシッと熱く、激熱湯のほうはさらに
ビシーッ!と熱い!熱すぎてまともにつかっていられない。1秒で激熱湯からあがり、
露天風呂へ。露天風呂はちょっとぬるめ、目の覚めるような鮮やかなオレンジ色の湯で、
駐車場から丸見え。でもそんなことは気にせずのんびりと湯を楽しんだ。


諏訪温泉浴室         露天風呂でご満悦

次は諏訪温泉からほど近い入来温泉へ向かう。入来温泉には「あぜろ湯」と「柴垣湯」という
2つの共同浴場があるが、今回は「あぜろ湯」に入ることにした。もともとは「網代湯」と
書いていたらしく、「あじろ湯」が薩摩訛りで「あじぇろ湯」→「あぜろ湯」となったと
思われる。鉄筋コンクリートの古びた建物で、浴室にはヒョウタンを半分に割ったような形の、
小さな丸タイルをびっしり貼り付けた湯船は激熱と熱湯の2槽式。ライオン型の湯口から
注がれる湯は塩化物泉、薄茶色透明で薄い塩味。熱湯の湯につかるとかなり熱め、そして
激熱湯はめちゃめちゃ熱い!指もつけていられないほど熱い。これ熱すぎでしょ!こんな熱い
湯につかれる人がいるのかと思ってしまうが、地元の人はあっさり入ってたりするんだな、これが。


あぜろ湯外観         浴室

しっかりと温まると車を北へ走らせ、さつま町の宮之城温泉へ。共同浴場である「湯田区営温泉」は、
もっとぼろい施設を想像していたんだけど改装したばかりなのかえらくきれいな外観、玄関で
ネコが2匹昼寝している。中に入ると新しくてきれいな石造りの浴室だが、もう既に温泉成分で
ところどころ赤茶色に変色している。大きな石の湯船に無色透明の湯が掛け流し。湯は弱い
金気臭で、特筆すべきはその触感、ローションのようにつるりとする感触が気持ちいい。
つるつるすべすべの湯をじっくりと堪能した。


湯田区営温泉外観       浴室

そろそろ昼食を取ることにしたが、このあたりはろくにめし屋もない。まあそんなことだろうと
思って鹿児島中央駅で買っておいた駅弁「さつま黒ぶためし」を駐車場の車内でむしゃむしゃ
食べる。サツマイモ入りの炊き込みメシのうえに黒豚が3切れ、どうでもいいけど鮭や煮物、
サラダといった黒豚と関係ないおかずが満載。旅行者からしてみれば、鹿児島の駅弁なんだから
もっと黒豚を全面に出してもらいたいし、他のおかずも鹿児島らしいもので勝負してほしいところだ。


さつま黒ぶためし

弁当を食べ終わると、宮之城温泉からほど近い紫尾(しび)温泉へ。共同浴場「神ノ湯」に
入ることにした。少し神社風の堂々たるつくりの建物で、建物前面には名物「あおし柿」の
ためのコンクリート浴槽がある。南九州では渋を抜いて甘くした柿をあおし柿と呼ぶ。柿の
渋抜きに一般的によく使われるのは炭酸ガスやアルコールだが、紫尾温泉の湯に柿を12時間
漬けると不思議なことに柿が甘くなるといい、あおし柿作りはこの地の秋の風物詩だという。
普通なら寒い軒先に吊るされる運命の渋柿の分際で温泉につかれるとはなんというけっこうな
ご身分の柿なんだ!


紫尾温泉神ノ湯外観      あおし柿の浴槽

さて、さっそく浴室へ。浴室へ入った瞬間、中央にでーんと構える石造りの堂々たる3槽式
湯船に圧倒され、ほんわかと漂う玉子系硫黄臭に恍惚となる。あつめ、中くらい、ぬるめの
3つの湯船には緑色透明の単純硫黄泉が掛け流されており、コップで飲むと玉子系の硫黄味。
つるりとする触感のとても気持ちいい湯で、海苔のような黒い湯の花も漂っている。落ち着いた
風格のある浴室で、やわらかな硫黄臭をかぎながらつるつるの湯につかっていると飽きる
ことがない。じっくりとお湯を満喫できた。


紫尾温泉神ノ湯の風格ある浴室

紫尾温泉のあるさつま町から薩摩川内市へ。どう見ても「さつまかわうち」としか読めないが、
「さつませんだい」と読むのが正解。面積は鹿児島県第一位、小西真奈美や山田孝之といった
俳優の出身地でもあるという。到着した川内高城温泉は「せんだいたき温泉」と読み、
「温泉療法医が選ぶ全国名湯百泉」に選ばれたほどの湯だという。案内図を頼りに共同浴場を
探すがなかなか見当たらず、どう考えてもこの辺なんだけど、という売店前でウロウロして
いると、売店の中からおばちゃんが「お風呂?」と聞いてきた。はい、と答えると「じゃあ
この奥の戸から入って」とのこと。よく見ると売店には「共同湯・店」と書かれているが、
扉にのれんなどは一切なく、浴場入口であることをまったく主張していないので、初めての
人は絶対に入口がわからないだろう。「ゆっくり入って行ってね、写真撮ってもいいよ」と
言うおばちゃん。きっとこの鄙びた雰囲気を写真に撮る旅行者が多いのだろう。


川内高城温泉共同湯。浴室入口は更にこの右側にある。

慎ましい扉を開けて中に入ると、浴室はこれがまた渋いの一言。浴室と脱衣場が一体となった
タイプで、小さな豆タイルがびっしり貼られた湯船は角にアールが取られ、あつ・ぬるの2槽式。
掛け流される無色透明の湯は単純硫黄泉で、弱い硫黄臭硫黄味、つるりとするやわらかい湯で
とても気持ちいい。壁には「ふろばで小便をしないでください」の貼紙。まあそういう人も
いるのだろう。でも浴室で小便する人がいるとしても、とにかくこの雰囲気はすばらしい。
時間が確実にゆっくりと流れているのを感じながら、良質な湯をじっくり楽しむことができた。


川内高城温泉共同湯の湯船   渋い雰囲気にご満悦

湯からあがり、川内高城温泉を散歩、意外にもたくさんの宿が温泉街を形成し、湯治場の
雰囲気が漂っている。と、突然現れた露天風呂におっさんが入っとる!と思ったら妙な
存在感を放つ西郷隆盛像。ここ川内高城は西郷もお気に入りの湯だったとのことで露天風呂に
入る西郷どん人形がつくられているのだが、これってどうなんだろ、かなりブキミだぞ!


ブキミ!西郷隆盛像

川内高城から西へ向かうと目の前にサーッと海が広がり、海岸線の道を北上、阿久根市に入った。
中心市街地にある阿久根温泉「ぼんたん湯」へ。露天風呂に行ってみると、岩の湯船は成分で
赤茶けており、貝汁のようにうっすら白濁半透明の湯が掛け流し、湯船にはぼんたんが浮かべ
られている。ぼんたん(文旦)は阿久根市が日本一の生産高を誇る黄色い柑橘類で、甘い香りが
爽やか、砂糖漬けにして食べることが多いが、これを使ったボンタンアメというお菓子も全国区。
ぼんたんの旬である冬の時期だけ湯船に浮かべているんだと思う。含塩化土類強食塩泉の湯は
金気臭、強烈な塩味がして、いかにも沿岸部の温泉って感じ。ものすごく塩分濃度が濃いので、
ひっかき傷に染みる。顔を洗うと目に染みてヒリヒリしてきた!そんな力強い湯につかりながら、
ぼんたんの香りを嗅ぐとなんだかほっとする。濃厚食塩泉に十分満足できた。
ぼんたん湯からあがるともう夕方。そろそろ今夜の宿へ急ぐことにした。


ぼんたん湯露天風呂      ぼんたんもご満悦?!

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