男の旅は一人旅 宮崎鹿児島編 2

鹿児島北東部は平坦なイメージを持っていたがこれが以外なほど山だらけ、山道の運転の
連続はなかなか疲れる。くねくねの細い山道を走り続けて出水市に入り、今日の宿・
湯川内温泉「かじか荘」に到着した。鄙びた木造の建物で、もう暗くなりかけているのに
まだたくさんの日帰り入浴客の車が停まっていた。北朝鮮問題の番組には必ず出てくる
早大教授・重村智計そっくりな主人に、さっそく部屋に案内された。この宿には湯治棟も
あるが、今日は長屋のような建物にある旅館部の「うぐいす」の間に宿泊。どんなぼろい
部屋なんだろうとドキドキしていたが、外観に比して中は以外にこぎれい。トイレなんて
ピカピカで拍子抜けした。


かじか荘外観         鄙びた湯治棟

さっそく風呂に入ることにした。宿には敷地の手前と奥に浴舎が2ヶ所あり、まずは手前の
浴室へ。半地下のように少し低くなった浴室には木の笠木で縁取られた大きな湯船がひとつ。
そこに美しいエメラルドグリーンの湯が満たされている素朴な佇まいに感動すら覚えた。
湯船には源泉の注がれる湯口はないが、湯は湯船の縁から溢れ出している。ここは湯船の底の
砂利から直接湯が湧き出すというマニア垂涎の足元湧出泉なのだ。湯船をつくってそこに源泉を
引き込むのではなく、湯が湧いているその上に湯船をつくってしまったという感じ。泉質は
アルカリ性単純硫黄泉、湯温は39℃ほど、いつまでも入っていられるぬるい湯で硫黄臭硫黄味。
湯船の底から湧いてくる生まれたての源泉は透き通るように澄んでいて美しい。いやー本当に
気持ちいい!ぬるい湯なので一度つかると冬場はなかなか湯船から出られないが、30分程
つかっていると体の芯から温まってくるのがわかり、汗がひとすじ額から流れ落ちた。
ぽかぽかと温まり、湯温と体温がほぼ同じになっているかのようなとても気持ちのいい状態。
これはすばらしい!!


底から源泉が湧くかじか荘の湯船

午後6時、夕食の時間となり食堂へ。僕以外にも2組の客が旅館部に宿泊しており、老夫婦+
孫と、意外なことに20代前半と思われる若い女性グループ。大きなお世話だがいかにも
全員もてなさそうなメガネ3人組だが、女友達との温泉旅行にこの宿を選択した着眼点は
尋常ではない。さて、こんな昔ながらの古びた宿でうまい食事なんて期待してなかったが、
キビナゴやカンパチのお造りやイッサキ(この辺りではイサキのことをこう呼ぶとのこと)の
塩焼きといった新鮮な地魚や、豚を煮込んだ鹿児島名物・とんこつ煮など郷土色のある
おいしい食事に満足。もちろんお酒は芋焼酎。冷える今夜はお湯割りで堪能。いやー、うまい!


ピカピカに輝くキビナゴの刺身

夜も更け、今度はもうひとつある奥の浴室へ。こちらも自然湧出の小さな湯船があり、
湯船が小さい分こちらのほうが温かく感じる。じっくりと、時折眠りながら1時間ほど
湯につかる。静かな静かな夜の秘湯、時折ポローンと小さな気泡が湯船の底の砂利から
あがってくる。地中から生まれ出たばかりの源泉に直接つかれるこの喜び。う〜ん、
なんてゼータクなんだ!最高に気持ちいい。我ながらこの宿を選択した着眼点は
間違ってなかったと確信した。


小さい方の湯船も足下からの自然湧出泉!

翌朝、日本列島に寒波が襲来し、ここ南国・鹿児島もなかなかの冷え込み。ダッシュで
浴室に駆け込み、湯船にドボン!あー、あったかい!そのうち早朝だというのに数人の
入浴者が入ってきた。どうやら湯治部に泊まっている人たちらしい。今回は旅館部だった
けど、こんなところの湯治部で自炊するのもいいなあ。湯船の中の全員が、眠るように
静かに湯につかっている。1時間ちょい湯船につかっていると、自分の体液と源泉との
境界がわからなくなるようなお湯との一体感を感じる快楽。まさに至福の一時。
いつまでもここにいたいなあ。
無理言って僕だけ普通より30分程早めてもらった朝食を食べ、宿をチェックアウト。
今度は湯治部に来たいです、と言うと宿の主人が「またかじかの鳴く頃にお越しください」
なんて風流な見送りの言葉なんだ!もっとここにいたいんだけど、今日もいろいろと
予定がありまして、さっそく本日一発目の温泉へ向けて出発した。

今日も予想以上のすさまじい山道。すれ違い不可能な曲がりくねった細い道が延々と続く。
東に走り続けるとやがて鹿児島県から宮崎県えびの市へ突入。生まれて初めて踏み込む
宮崎の地だ。ええかげんほんとに運転に疲れてきた頃、やっと城山温泉に到着した。
城山温泉は宮崎北部の温泉地・京町温泉から少し山のほうへ入った高台にある。湯小屋には
「銘湯全国ベスト8選」「逆さ鍾乳石」の文字。逆さ鍾乳石?おそるおそる浴室に入ると「!」。
浴室の床全体が強力な温泉成分によるこの世のものとは思えないクレーター状のオブジェで
ゴテゴテ、湯船の端は赤茶けた成分の山が凝り固まっている。これが逆さ鍾乳石か。
っていうかこうなる前にもうちょっと何とかならんかったんか!というくらい、もう浴室は
訳がわからない状態になっている。2槽式の湯船にはオレンジ色の湯が満たされ、注がれる
源泉はナトリウム・カルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩泉で、炭酸臭炭酸味、湯口附近では
炭酸がシュワーッとはじけている。百枚皿状態の浴室でぬるめの湯にじっくりとつかると
運転の疲れが癒される。宮崎県の第一湯からとんでもない強烈個性派の湯に巡りあってしまった。


城山温泉浴室         湯口もコテコテ!


もう温泉成分でわけがわからない!

城山温泉を出発し、宮崎自動車道と軌を同じくするように小林市へ入り、コスモス牧場の
一角にあるコスモス温泉へ。老人保健施設の目の前にB級感あふれる湯小屋が建っており、
壁にはでかでかと「コスモス温泉」と書いてある。玄関に立つとその入口には
「祝 この度、コスモス温泉の湯がバスクリンのツムラに、人気の『炭酸泉』部門で
全国ベスト10に選ばれました!!」という貼紙が。入浴剤メーカーのツムラが選んだ湯とは
いったいどんな温泉なのか。実はあまり下調べをしてこなかったコスモス温泉だが、
否が応でも期待が高まってきた。浴室に入るとものすごい湯気が充満しており、大きな
湯船が2つに仕切られている。マグネシウム・ナトリウム-炭酸水素塩泉の湯は暗緑色の
笹濁り、香ばしい炭酸と土類金気の香りで炭酸味、湯は熱め、特に源泉が惜しげもなく
掛け流されている熱湯湯船は、長くつかっていられないほど、体がしびれるような熱さだ。
炭酸泉特有のヒリヒリするような浴感もあり、さすがはツムラが選んだ炭酸泉だ。この
コスモス温泉で備え付けのシャンプー・石鹸を使って体を洗い、ヒゲを剃った。なんせ
昨日の「かじか荘」は基本湯治場だから浴室に石鹸類の備え付け無かったからなぁ。


コスモス温泉         浴室

コスモス温泉から南下して、高原町へ。原を「はる」と読む、南九州独特の読み方の例に
漏れず「たかはる」と読むこの町は、天孫降臨伝説の神話のふるさととして知られる。
道端に乱立するノボリに誘導されるように山の中の道を走っていくと、でーんと大きな
温泉センター、「サンヨーフラワー温泉」に到着。なんか電機メーカーが経営してそうな
名前だが、この施設所有者の奥様の名前が山中陽子さんとおっしゃるそうで、その「山」と
「陽」を取って、花に囲まれた温泉としたいという願いを込めて「サンヨーフラワー」と
名づけたんだという。中に入ると、食事処や休憩所、ゲームコーナーなどがありいかにも
センター系施設って感じ。

浴室に入ると、鼻を突く忌まわしい塩素消毒臭に「えっ、ハズレか?!」と一瞬焦ったが、
それは真湯を使った泡風呂からのもの、源泉100%掛け流し湯船がしっかり設けられていて
一安心。露天風呂もあるとのことでさっそく外に出てみると、岩を組んだ湯船にくすんだ
緑色っぽい笹濁りの湯が掛け流し、湯口附近の岩は温泉成分がウロコ状にこびりついている。
泉質はカルシウム・ナトリウム・マグネシウム−炭酸水素塩泉、その源泉は強い炭酸味で、
つかっていると体に小さな気泡が付着。これは予想以上にすばらしいお湯だ。炭酸が強いので
体が冷えるような独特の入浴感があり、ぬるめの温度が気持ちいい。そして露天風呂からは
南九州を代表する名山・霧島連峰の絶景が。いやーこれは気持ちいい!山を眺めながら
のんびりと湯を味わうことができた。先ほどのコスモス温泉とともに強力な炭酸泉だが、
コスモス温泉は熱湯好き、サンヨーフラワー温泉はぬる湯好きに向いている感じ。
僕はどっちかというとサンヨーのほうが気に入りました。


霧島連峰を望むサンヨーフラワー温泉の絶景露天風呂

高原町をさらに南下すると、「極楽温泉」や「東霧島温泉」などの温泉密集エリアに到達。
その中から「湯之元温泉」に入っていくことにした。けっこうぼろいところを想像して
いたのだが意外にこぎれい。浴室には、中央に加熱湯があり、その脇には「高濃度炭酸泉」、
屋外には露天風呂「中濃度炭酸泉」がある。一刻も早く高濃度炭酸泉に飛び込みたい衝動を
抑え、まずは沸かし湯へ。オレンジ色不透明な湯が満たされた湯船は温泉成分で赤茶色に
変色してしまっている。酸化してオレンジ色になった湯船の湯とは対照的に、湯口の
源泉は無色透明、飲泉コーナーで味わってみると、冷たい源泉はピリピリと舌を刺激する
強い炭酸味。


湯之元温泉湯船        飲泉できる源泉

ゆっくりと温まったところでいよいよ高濃度炭酸泉へ。源泉を非加熱のまま
そろりと湯船に注いでおり、冷たい冷泉につかった瞬間「!!」一瞬で体中にいっせいに
細かい気泡がびっしりと付着。まさによく冷えたサイダーにつかっている状態。強い
炭酸含有のため体がピリピリするようなものすごい清涼感があり、ヒゲ剃り跡がヒリヒリ
するほど。これまでいろんな炭酸泉につかってきたが、ここまでの浴感は初めて。これは
すごい!真冬にもかかわらず源泉につかり続け、芯まで冷えたところで加熱湯へ。こんな
頭がクラクラしそうな交互浴を何度か繰り返した浴後はすっきり爽快。すばらしい湯との
出会いに感動すら覚えた。


入った瞬間アワアワな高濃度炭酸泉

湯之元温泉の超高濃度炭酸泉の温冷交互浴は、思いのほか体力を消耗し、急激に腹が減ってきた。
が、こんな辺鄙なところに食事処などない。どっかで駅弁でも買っておくべきだった!
空腹を堪えて西へ、鹿児島県霧島市に入り、霧島神宮近くの「霧島民芸村」内の食事処へ
飛び込んだ。うどんかそばでいいやと思っていたが、メニューを見た瞬間、やはり鹿児島
らしいものをと思い「黒豚とんかつ定食」を注文してしまった。が、このとんかつ、厚い
衣がカチカチで豚の味を殺してしまっておりがっかり。

この霧島民芸村には露天風呂があるが、当初ここでは入浴しない予定だった。が、石を
くりぬいた湯だめに源泉が注がれているのを見つけると無性に入りたくなり、露天風呂へ直行。
建物の裏の林の中にひっそりと脱衣小屋が立っており、その奥に男性用露天風呂が丸見えに
なっている。木々に囲まれた岩づくりの露天風呂で、やや青白い半透明の源泉が掛け流し、
湯口の岩は硫黄成分でレモンイエローに染まっている。湯は熱め、弱い硫黄臭硫黄味。
つるりとする触感が気持ちいい湯で、白い粉のような湯の花も舞っている。この旅でやっと
初めての火山性硫化水素系のお湯につかり、のんびりとすごした。やっぱりこの露天に
立ち寄っておいて正解だった。


これに引かれて入浴を決意   露天風呂でご満悦

大好きな霧島温泉郷でのんびりしていきたいところだが、帰りの飛行機の時間も迫ってきている。
この旅最後の温泉に向かうことにした。霧島から妙見温泉方面へ、途中で犬飼の滝方面の
山道へ入り、看板を頼りにかなりシビアな細い道を進んでいくと目指す和気湯(わけのゆ)
駐車場に到着した。
車を下りてしばらく歩いていると「え?!」何の前ぶれもなくいきなり露天風呂が現れ、
オッサンがつかっとる!このロケーション、唐突すぎるやろ!和気湯は、奈良・平安期の
律令官人 ・和気清麻呂に由来する、日本最古の露天風呂という言い伝えもある風呂で、
露天風呂というか野湯といった感じ。もちろん混浴だが、囲いなどはまったくなく、女性には
相当キツイと思われる。天降川の目の前に石を組んだ2槽式の湯船があり、モスグリーンの
濁り湯が溢れている。つかってみるとちょうどいい適温、湯船の底や壁の裂け目から湯が
湧いているような感じ、湯は土類金気の香り、赤茶色の湯の花も漂っている。開放的な
露天風呂にのんびりとつかり、この旅最後の湯をたっぷりと楽しんだ。


開放的すぎる露天風呂・和気湯

和気湯からあがり、空港に向かう車内で今回の旅を回想する。やっぱり鹿児島は良い。
温泉はいいし食べ物もうまい。そして宮崎も実力派の温泉が目白押しだった。また金曜日の
出張ないかな〜、と期待する僕は、まだまだ鹿児島を訪れる気満々である。
おわり。

男の旅は一人旅へ