男の旅は一人旅 南紀編 1
プロローグ
当然のことだが、基本的に男の旅は一人旅でなければならない。
惚れた女と二人旅なんてのもたまにはよかろう。しかし時に男というものは
孤独の只中に身をさらし、あらゆる不測の事態にたった一人で立ち向かい、
また一人静かに日常の自分を見つめなおさねばならない。
男の旅というのは元来そういうものである。そんな男の旅先は
十分な吟味を経て決定されねばならない。今回俺が挑むのは紀伊半島横断である。
西の高野龍神、東の那智という霊験あらたかな地を結ぶ熊野古道の北には
大台ケ原がそびえ、東海岸には黒潮の荒波洗う日本有数の漁港・勝浦をひかえる南紀。
男としてぜひ制覇しておきたいルートである。
11月3日、連れ合いの車を強奪した俺は午前6時に泉佐野を出発した。
阪和道、御坊湯浅道を乗り継いで吉備インターで降り、日高川沿いに
S字カーブの続く山道をひた走る。前にも後にも車は見えない。
走っているのは自分の車だけである。両側に迫る山並みの谷間の川が
流れるままに道はうねうねと続く。さて、第一の目的地として目指すのは
熊野古道の起点、中辺路である。向かうのは妹島和世設計の
熊野古道なかへち美術館からさらに山奥へすすんだところにひっそりと湧く
奥熊野温泉である。どろどろとしたサラダ油のようなインパクト強烈な
浴感があるとのことで温泉バカの間ではかなり有名な温泉で、
多くの事前情報を入手していた。奥熊野温泉は、かつてはアイリスヒルズという
ホテルの中にあった温泉だが、こんなところのホテルがはやるわけがなく廃業。
跡地はオートキャンプ場・アイリスパークとなり、その一角に温泉だけが
「女神の湯」と銘打って生き残っているという。出発から2時間半、
8時30分にアイリスパークに到着。かなり怪しいところとは聞いていたが、
その怪しさは俺の想像を軽く超越していたのだった。
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