男の旅は一人旅 南紀編 4

孤独の大台ケ原
勝浦から熊野へと、海沿いの国道42号線を北上する。こういった風光明媚な
シーサイドドライブは男の一人旅ににつかわしくない。とりあえず
吉野熊野国立公園随一の景勝地、鬼ヶ城に到着した。まず売店に赴く。
冬の南紀といえばサンマ寿司に決まりでしょ!というわけでさっそく注文。
酢でしめたサンマがまるまる一匹のっていて、なかなかうまい。サンマを
酢でしめるなんて、このへんから山奥へ熊野古道を巡礼した人たちの
保存食だったんだろうか。腹がふくれたところで鬼ヶ城を散策。
波に浸食された怪岩奇岩が続いていたが、台風で手すりが破壊されたとのことで
途中までしかいけなかった。その途中には記念写真用の長いベンチ、
そして鉄でできた等身大の鬼の人形が立っている。頭に角を生やした赤鬼で
トラ柄のパンツを履き、口が「ガオー」という感じになっている。
国立公園内に建築を建てる場合、景観を乱さないよう厳しい規制がかけられるが、
こういう鬼人形のほうがよっぽど景観を乱している。いったい誰がつくっとるんだ!
こんな鬼野郎と写真撮っても誰もうれしくねーだろ、と思いながら熊野を後にした。

熊野から進路を北西にとり、ふたたびS字カーブの連続する山道を行く。
三重県から奈良県下北山村に入りしばらく走ると、下北山温泉「きなりの湯」に
到着した。午前中、ホテル浦島で6つの湯をはしごしてたので、なんだか
下北山温泉なんてどうでもよかったのだが、下北山村なんてもう一生来ることも
ないだろうと思い直すと、せっかくだから入っとこうということにした。
新しい日帰り温泉施設で、概して和風のつくりになっている。
ナトリウムー炭酸水素塩泉、やや黄褐色の湯で、浴槽のふちから湯があふれており
源泉掛け流しのように見えるが、泉温29.7℃、湧出量は毎分58.5リットルと
かなり少ないから、加熱・循環の湯だとわかる。山奥の湯なのになんだか
磯の香りのような臭いがするので分析表を見てみると、やはり臭素の含有が確認された。
循環にしてはそんなに湯の特徴が損なわれてない気がした。
まあ可もなく不可もないといったところか。

さらに北上をつづけると上北山村に入る。このあたりまで来ると、
紅葉した山の間から、冠雪した大台ケ原山をのぞむことができる。
上北山村には小処温泉と上北山温泉の2つがあり、どちらにしようか迷ったが、
下北山温泉に入ったので、今度は上北山温泉にしよう、ということにした。
この入湯もほとんど勢いである。上北山温泉「薬師の湯」は道の駅から橋を渡って
アクセスする日帰り温泉施設。35度のナトリウムー炭酸水素塩泉で、
ここも加熱循環の湯だが、無色透明で、きなりの湯のように臭素臭はなかった。
特に特徴のない湯だったので、ちゃっちゃとあがり、
いよいよ最終目的地、入乃波温泉に向かった。

上北山村から川上村に入り、いままで走ってきた県道からさらに細い道へと分岐する。
ついに入乃波温泉に到着だ。入乃波と書いて「しおのは」と読む。
迷うことなく旅館「山鳩湯」に着いてみると、こんなアクセスしにくい場所に
あるにもかかわらず、駐車場は満杯だった。この山鳩湯は崖にへばりつくように
建っており、「なにもこんなとこに建てんでもええやろ」といいたくなるところが
ニクい。とにかくすごい建ち方をしている。入浴料600円を払い、急な階段を
ずいぶん下まで下りていくと脱衣場があった。浴室に入ると、「!!!」。
噂にたがわぬアーチスティックな浴槽が出迎えてくれた。もともとはヒノキの
浴槽なのだが、温泉析出物が付着してゴテゴテとわけのわからない状態になっている。
露天へ出てみると、これも木をくりぬいた浴槽がゴテゴテコテコテ状態になっており、
その中に黄土色不透明の湯が掛け流されている。湯は内湯から露天に流れ込み、
露天からあふれた分は川へ豪快に流されている。入ってみるとぬる目の湯が心地よい。
ナトリウムー炭酸水素塩泉で、39.6℃と泉温はやや低め。いつまでも
入っていられるぬるさだ。ごろごろとトドのようにつかった後、内湯へ。
滝のように流れ落ちる湯口には飲泉用のコップがおいてあった。湯口から
出たばかりの湯は透明で、飲んでみるとほんのり塩気のある苦い湯で、
あんまりおいしい湯ではない。ゆっくりあったまってあがってみると、
非常に肌が乾燥しており、カサカサ感があるくらいだ。とにかく効きそうな湯で、
アクセスの悪さ、ロケーション、建物、浴槽、湯とどれをとっても
秘湯度は関西屈指だろう。ただ、これだけ良い泉質なので
噂が口コミで広まる上、最近では雑誌でも取り上げられているようで、
訪れる人は後を絶たない。できれば貸し切り状態でのんびりつかりたい湯であった。

俺の南紀の旅も終わりを告げた。だが、勝浦以南の太地、串本や、
熊野以北の紀伊長島あたりを落としているし、本宮温泉郷の川湯やつぼ湯を
制覇していない。やり残したことの多すぎる俺はまだまだ南紀を訪れる気満々である。
おわり

男の旅は一人旅へ