男の旅は一人旅 那須塩原編 1
急に行くことになった東京出張に乗じて栃木県北部へ遠征した。
金曜日、東京での任務を終えると東北新幹線に乗り那須塩原駅で下車。
バスに乗り換えて那須湯本温泉をめざす。車窓からは気持ちの良い新緑が見えるが、
標高があがるにしたがってタンポポが咲いていたりして那須高原はまだ遅い春を迎えたばかりであると実感する。
湯本一丁目バス停で降りると、曇りということもあって肌寒い。3分ほど歩くと今日の宿・雲海閣に到着した。
雲海閣は古い湯治宿の雰囲気。現在では素泊まり専門の宿として営業している。帳場では
まだ30代と思われる主人が出迎えてくれた。鈴木ヒロミツというかめざましテレビの軽部真一というか
そんな系統なのだが、マギー四郎が太ったような感じにも見えてこんなところにも栃木らしさを感じた。
菊の間に案内されて宿帳に記入。フロントで客を立たせてではなく部屋で記帳させる宿は久々だ。
温泉についていくつか質疑を投げると懇切丁寧に答えてくれ、その言葉の端々に源泉を大切にし、
また誇りにしているのが感じられた。さっそく湯につかることにした。ここには別源泉の浴室が2つある。
まずは「明礬泉みはらし風呂」へ。みはらしといっても露天風呂ではなくタイルの内湯なのだが、
宿が高台にあるため窓からの眺めはたしかに良い。単純硫黄泉の湯は無色透明、硫黄臭+明礬臭で熱め、
たっぷり掛け流しになっている。白っぽい湯の花も微量ながら浮かんでおり、PH4.1の弱酸性。
なめてみると苦味と少しの酸味が感じられる。つかるとおもわず「あーっ」と声が漏れる湯で、
東京からの道程の疲れがふっとんだ。

明礬泉みはらし風呂 硫黄泉
次に硫黄泉の浴室へ向かう。壁床天井漆喰塗りのあやしいスロープの廊下を降り、
更にかなり段数のある木造の直階段を降りきるとようやく浴室にたどり着いた。
その頃にはもう硫化水素臭がぷんぷん充満していた。浴室に入ると床も浴槽も木で湯治場の雰囲気。
浴槽は2槽式になっている。泉質は酸性-含硫黄-カルシウム−硫酸塩・塩化物泉。
共同湯・鹿の湯から引かれた青みがかった白濁湯が木の湯口から掛け流しになっている。
かけ湯をすると熱め。向かって右の浴槽が45℃、左が43℃くらいの温度になっている。
PH2.5で味は苦味と酸味。酸性泉だが肌触りなめらかであまりぴりぴりする感じはない。
そんなに濃厚さは感じないものの、引湯ながら湯の劣化は感じられず、質の高い湯だと思う。
のんびりと貸切状態で湯を楽しみながら硫黄臭でへろへろになった。
湯からあがり、夕食を食べに町へでると、飲食店が全然ない。コンビニも見当たらない。
途方に暮れかけたところで商店を発見し、カップラーメンと豆を購入。部屋のポットで湯を注ぎ、
豆をポリポリ食べながらビールを飲んだ。温泉旅館の食事処で一人寂しく飯を食うよりは
こんな感じのほうが俺にはあってるかもしれないと思った。
夜中にもう一風呂入ろうと思っていたのだが、知らぬ間にぐっすり眠り込んでいた。
翌朝、5時に朝風呂。昨日道を聞いておいた高雄温泉まで歩いていこうと5時半に宿を出発した。
高雄温泉は那須湯本からさらに山を登った中腹にある。かつては温泉旅館があったのだが、
その旅館が火事で焼失。旅館は無くなっても湯はこんこんと湧き続け、
現在では焼け跡の湯船を利用した露天風呂となっている。朝の那須高原は肌寒いくらい涼しく、
新緑と山ツツジの赤のコントラストが美しい。最初は爽やかな朝の散歩のつもりだったのだが、
20分ほど道を登り続けたあたりから半泣きになってきた。運動不足の俺にこの山道はかなりきつい。
しかも仕事の格好のままだからなんとも場違いな革靴を履いている。道路脇の側溝には湯が流れ、
硫黄の臭いが立ち上っている。これが高雄から流れている源泉にちがいない、目的地は近いぞ、
そう思って登り続けるとそれは途中にある温泉宿から捨てられた湯だった、なんていうことを
3回くらい繰り返しただろうか。山道を登ること30分。山から猛烈な勢いで湯川が流れてきており、
少し開けた場所に数台の車、キャンプしている人もいる。
ふらふらになりながらようやく高雄温泉露天風呂に到着した。
6時過ぎに到着したのだがもう数人の先客が入っていた。
露天風呂と言っても野湯だから、脱衣小屋なんてない。服を脱ぎ捨てるとさっそく湯につかる。
斜面に沿って3つの湯船があり、一番上は広くてあたたかく無色透明、2段目は小さてぬるくやや白濁、
3段目は小さく更にぬるくて白く、その後は掛け流しになった湯が川となって斜面を流れ落ちていた。
俺はぬるめの2段目の湯でのんびり湯浴みした。石で組まれた湯船は硫黄成分で真っ白、底は砂利で、
上流から引かれた湯がどぼどぼと注がれている。苦労がいっぺんに報われる。やわらかな硫黄臭、
味は苦味のなかに硫黄味も混じっている。ここは湧出温度も40℃くらいということだから
いつまでも入っていられる。先客もお茶や缶ビールを持参して長湯を決め込んでいる人が多い。
ここまで歩いたかいがあったと満足して、宿に戻ることにした。着替え終わった俺の服装はスーツに革靴。
ここで背広の人を見たのは初めてだ、と入浴客のネタにされてしまった。
名古屋から仕事のついでに足を伸ばして湯本から歩いてきたというと、ここへ車で来る途中、
背広のやつが歩いているのは見えたがまさか温泉に行くと思わなかったという人がけっこういた。
一人のおっさんがよかったら帰りは乗せてやるよと言ってくれたのでご厚意に甘えた。
下りとはいえ、あの道を歩いて戻るのはやはりきつい。湯本まで乗せてもらい、
宿へ戻ってチェックアウトした。宿の主人が高雄温泉に行くなら車で送りますよ、と言ったので
もう歩いて行ってきたといったらかなりびびっていた。この主人の人柄も湯も良い雲海閣。
機会があればまた訪れたい。

高雄温泉露天風呂 とっても気持ちいい高雄温泉
那須湯本温泉の共同浴場・鹿の湯へ行くことにした。他にも共同湯が2つあるようだが
ジモセン(地元民専用)で、旅行者が入れるのは鹿の湯だけらしい。
湯本のバスターミナルから階段で下りていくと、川沿いに木造の趣きある浴舎が建っている。
400円払って川にかかる渡り廊下を渡って浴室へいくと、そこは感動的ですらあった。
広い板張りの浴室には6つの浴槽があり、青白い湯が満たされている。すべての浴槽は温度がちがい、
41、42、43、44、46、48℃の6段階の温度設定。48℃という表示にかなりびびったが、
とりあえず全部入りたいと思った。一番手前に打たせ湯と掛け湯コーナーがあり、掛け湯はびりっと熱かった。
伝統的な湯治では、ここで100〜300回頭から掛け湯してから湯につかっていたらしい。
俺は3回くらい掛け湯して41℃から順番に入っていく。硫黄臭苦味と酸味で気持ちの良い掛け流し。
44度までは難なくクリア。奥2つが46℃と48℃。常連というかほとんど主みたいな人たちが
浴槽を取り囲んでおり、みな砂時計とヒシャクと凍らせた飲み物持参、しきりに温度計を見ては
湯量調整をしていた。46℃の浴槽につかる。やはりぴりっとくる熱さだが入ってしまうと
あとは我慢できる。3分ほどつかって出ると汗が吹き出した。ふーっと体を冷ましていると、
主の一人が48℃につかるようだ。3分砂時計をひっくりかえして入湯。湯船の角から湯に入り、
まず湯船の縁に肘を乗せる感じで腰までつかり、徐々に体をしずめていくのがスタンダードな入り方らしい。
話を聞いていると、一人が入っているとき、途中でもう一人入るのはご法度。少しでも湯の動きを
少なくするためだという。いっせいに入っていっせいに出るのが鉄則とのこと。
48℃浴槽には4人の主が交代で入っているのみ。挑戦してみたかったがちょっと俺には敷居が高かった。
でも48℃に3分つかるなんてやっぱりバケモノだ。長年の鍛錬の賜物なのだろうか。
いつか挑戦しに再訪したいと思った。この鹿の湯、昔からの湯治の伝統が守られている共同湯でとても気に入った。
鹿の湯を出た俺は、ひんやりとした気持ちよい空気の中バスターミナルへ。
さらに山上の秘湯へ向かうためバスに乗り込んだ。

鹿の湯外観 浴室は湯治場の雰囲気
那須塩原編2へ
男の旅は一人旅へ