男の旅は一人旅 薩摩編 1
くそ忙しい短期集中型の仕事をひとつ終わらせ、のんびり休暇でも取るか、と思っていた
矢先、次週にさっそく新しい仕事を入れられた。くそー。こうなったらそれまでに
夜行バスをフルに使って一泊二日の強行軍で意地でも旅に出てやることにした。
行先は11月のこの時期でも暖かいお気楽ムード満点の南国・鹿児島にしよう。
とはいっても、名古屋から鹿児島行きのバスは出ていない。いったん大阪まで行って、
なんばOCATから鹿児島行きの夜行バスに揺られることおよそ12時間。翌朝7時40分、
鹿児島中央駅前で下車した。九州新幹線の開通に伴って、長らく親しまれた「西鹿児島駅」
から新しい名前になった鹿児島中央駅は某社設計。そのとなりには同じく某社設計の
商業ビル「アミュ鹿児島」がオープンしてた。建物にでっかい観覧車のっかってるぞ。
今さらなあ、って感じだけど、名古屋のしょぼい観覧車商業ビルよりよっぽどましなので
まあいっか。腹が減ったので駅構内を徘徊してみると、さつま揚げの店を発見。その名も
「揚立屋」。その場で揚げたばかりのやつを小売してくれ、俺はノーマルな小判型のやつと
野菜入りをチョイス。コンコースのベンチでむしゃむしゃ食うとこれがうまい。
なかなかいい朝飯になった。

アミュ鹿児島 さつまあげの揚立屋
ちょっと小腹を満たしたところでさっそくレンタカーを借りて西へと走り、湯之元温泉を
目指す。湯之元温泉は、指宿に次いで宿泊施設が多いという県内屈指の規模を誇る温泉だと
聞いていたが、大きなホテルが林立しているわけでもなく、なんだかひっそりとした
いい感じに鄙びた雰囲気の温泉街。ここでは有名な共同浴場・田之湯温泉に入ることにした。
なんでも「日本朝風呂党」の本部となっている、風呂好きが集まる共同湯として知られている
らしい。くたびれたコンクリートの建物の玄関に立つと確かに「日本朝風呂党本部」の看板。
なんなんだ、その組織は。おそるおそる中に入ってみると、脱衣場に「日本朝風呂党立党宣言」
なるものが掲げられており、それによるとどうやら朝風呂好きなおっさんたちが、朝風呂を
ブレイクさせようと勝手に結党宣言しちゃってるような感じらしい。え、そんだけの話なの?!
いよいよこの旅の第一湯、浴室に入った瞬間立ち込めているやわらかなタマゴ系硫黄臭に
早くも気分が高まる。浴室中央にレイアウトされた湯船が真ん中で仕切られ、奥が源泉の
注がれるあつ湯、手前がそこからあふれた湯が流れ込むぬる湯となっているという、
鹿児島では非常によく目にするあつ・ぬる2槽式タイプ。源泉掛け流し状態の無色透明な
湯に入ってみると、ちょっと熱めの湯に「あ“−っ」とおっさんのようなため息がもれる。
湯の中には白と黒の細かい湯の花が乱舞しており、飲泉用コップで飲むとまろやかなタマゴの
ような硫黄味。「日本朝風呂党」もほれ込むすばらしい湯に大満足、そしてこの入浴料が
たったの120円なんだから大感激。これは幸先のいいスタートだ。

田之湯温泉浴室 日本朝風呂党立党宣言
湯之元温泉から薩摩半島の西海岸を南下し、吹上温泉へと向かう。吹上温泉は西郷隆盛も
好んで訪れていたという名湯で、温泉街の入口には西郷どん人形も設置されている。
西郷どんお気に入りの湯を求めて、吹上町営公衆浴場へ。コンクリートの公民館風の建物で、
浴室には中央で仕切られた2槽式の湯船がひとつ。無色透明、弱い硫黄臭に薄い硫黄味の
なめらかな湯で、思ったよりあっさりした感じ。どーでもいいけど、風呂でずーっと
しゃべっていた地元のおじいちゃんたちの会話、まったく聞き取れなかった。
おそるべし、鹿児島弁。

西郷隆盛来遊の地 吹上町営公衆浴場浴室
吹上温泉からさらに山奥、吹上町の和田地区にある助代温泉を目指す。探し出すのは
かなり難しいだろうと覚悟していたのだが、看板も出ていてあっさりと見つかった。
駐車場に車を止めると、ずらりと並んだオリにはおびただしい数のクジャクやニワトリ!
かなり焦る。木造の素朴すぎる浴舎に向かうと、5匹の猫と白い犬がひなたぼっこしていた。
なんてのどかなんだ!浴室に入ると、その鄙びた風情には感動すら覚える。浴場全体から、
長い時を経てきたものだけが醸し出せるいぶし銀の味がにじみ出ている。渋い木造の
屋根裏の下には、大きな岩造りの湯船がひとつ。そこには美しい黄緑色の湯が満たされており、
少し焦げたような硫黄臭が立ち上っている。やや熱めの湯にざぶんとつかると、湯は肌が
つるりとする感触もあり、はあーっと渋い屋根裏を見上げているとたまらなく気持ちいい。
素朴な雰囲気の中、硫黄の香りを嗅ぎながら緑色の湯にぼんやりつかる。
ここでは確実に時間がゆっくりと流れている。

素朴な湯小屋 助代温泉浴室
そろそろ腹が減ってきた。助代温泉から一気に南下して枕崎市に入る。九州屈指の漁港・
枕崎港へ行ってみると枕崎お魚センターという施設を発見。1階が土産物屋、2階が
レストランになっていて、まずは1階を徘徊して試食しまくる。カツオの腹皮の唐揚げ、
各種カツオの煮込み、鰹節などなどつまんだところで、そろそろ2階で本格的に昼食を
とることにした。注文したのはカツオビンタ膳。ビンタというのは鹿児島地方の言葉で
「頭」を意味する。出てきたのはカツオのタタキ、腹皮の湯引き、酒盗=カツオの塩辛、
そしてメインはビンタの煮付け。カツオの頭を丸ごと味噌味で煮てあってうまい。飯が
どんどんすすむ。ツヤツヤのカツオのタタキも絶品で、大いに満足することができた。

カツオビンタ膳 ビンタ煮付
枕崎市街から少し東へ車を走らせると、枕崎なぎさ温泉へ到着した。看板はかなりくたびれた
感じだが、玄関周りはわりと新しくなっていた。内風呂もあるが、なんといってもここの
名物は露天風呂。海沿いの高台にあるので、露天風呂からは東シナ海の絶景が見渡せるのだ。
岩の露天風呂にはうっすら笹にごりの湯がみたされ、湯船の岩は温泉成分で茶色に変色している。
なめてみると少し苦くて塩辛い湯で、しばらくつかっていると体に小さな気泡がいっぱい
くっついてきた。なんとも風光明媚な絶景露天風呂に満足できた。
余談だが、ここの駐車場で生まれて初めて物乞いのおばちゃんに遭遇してしまい、100円でも
恵んでくれないかと頼まれてしまった。明日の米にも困る人がいる一方で、お気楽な
温泉旅行をする自分。まぁあんまり考え込んでもどうなるもんでもないけどなあ・・・。

枕崎なぎさ温泉露天風呂 ご満悦
海岸沿いの道をさらに東へ進み「頴娃(えい)町」に入る。町名つけるときもう少し考えれば
よかったのに。こんなの誰も読めねえよ!その頴娃町の別府地区にあるのが「えい別府温泉」。
まだそれほどくたびれていないセンター系の施設でけっこう混んでいた。湯はまるでウーロン茶の
ような茶褐色透明、おがくずのようなモール系の鉱物臭で、肌をなでるとつるりとする感触が
あって気持ちいい。思ったより個性あるトロリとする湯に満足。さらに東へと走り出すと、
標高924m、薩摩富士の別名を持つ開聞岳の秀麗な雄姿が間近に迫ってきた。

えい別府温泉浴室 開聞岳
開聞岳の東山麓にぐるりと回り込むと川尻温泉に到着。開聞町温泉保険保養館の湯につかって
いくことにした。プールも併設された古びた建物だが、プールには目もくれず浴室へ。
ここでは2種類の源泉が利用されており、ひとつはぬるくて無色透明無味無臭の湯津源泉を
加熱利用。あっさりめの湯だな、なんて思っているともうひとつの恵比寿源泉にしてやられた。
茶褐色の恵比寿源泉はジリジリ熱い激熱湯で、なめると強烈な塩味。臭いはというと、金気臭に
加えてアンモニアのような匂い。これはすごい。なんせアンモニア臭だぞ!便所の匂いだぞ!
でもその匂いがなんだかクセになるのだ!つかっているとあまりの塩分で目がヒリヒリしてくる。
なんせこの湯の成分総計は35230mg。これって、ひとケタ間違っとらんか?!と思うくらいの
すごい数字、超成分濃厚な湯ってことなんです。インパクトのでかい強烈食塩泉に湯あたり寸前、
命からがら川尻温泉を後にした。

川尻温泉湯津源泉 恵比寿源泉
川尻温泉からほんのちょっと車を走らせると、開聞温泉の共同浴場が建っている。コンクリートの
曲線的なデザインの建物はかなりくたびれてきており、哀愁が漂っている。玄関扉は開けっ放し、
脱衣場をフルチンで歩いているおっさんが丸見えになっている。陽気な番台のおばちゃんに
入浴料を払って浴室に入ると、渋いコンクリート浴槽が2槽式になっており、奥が源泉が
どぼどぼと注がれるあつ湯、手前がぬる湯となっている。その湯はほとんどオレンジ色のような
赤茶色不透明、ものすごく熱い湯で、飲んでみるとなかなかうまい塩味。ジワリと身に染む湯に
つかりながら周囲を見ると、そこらじゅうの壁にマジックで書いた貼り紙が。水を出しすぎるなとか、
熱いぬるいと文句言うなとか、窓を壊すなとか、まあそんな注意書きなのだが、けっこう辛口で
書いてある割に語尾がほのぼの系でけっこうほほえましい。この貼り紙読むためにここに来る価値
あるかもしれない。どんな貼り紙なんだか知りたい人、ぜひ一度足を運んでみてください。
もちろん湯も良質。じーっくりと温まったら、木の枕をつかって床にごろんと横になり、
桶で体に湯をかけながらグダーッとするのが最高だ。南薩摩の温泉にはこんな木の枕が
備え付けてあるところが多くてうれしい。

開聞温泉外観 浴室
鄙びた共同湯に大満足した後は、進路を北に向けて鰻(うなぎ)温泉を目指す。鰻温泉と
いうからには、ウナギのようにぬるぬるする湯なんだろうか、それとも温泉熱を利用して
ウナギの養殖でもしてるのか、なんて思っていたら、だいぶ昔に「イッシー」という恐竜が
住んでいると噂された池田湖の東に位置する鰻池のほとりにあるから鰻温泉というらしい。
鰻地区に到着してみると、なんとそこらじゅうから温泉の噴気があがっていて、硫黄の匂いが
立ち込めている。普通の家の庭からも、もうもうと湯煙があがっているのだ。それもそのはず、
このあたりはものすごい地熱地帯で、地熱で水道水が熱くなることすらあるらしく、
この温泉熱を利用して野菜や海産物を蒸す石のカマドを持つ家も多いという。

噴気が立ちこめる風景 石のかまど
区営鰻温泉に入ることにした。木造の素朴な浴舎には「西郷どんゆかりの湯」と書かれている。
西郷隆盛もかつてこの湯につかったのだろうか。とっても愛想のいい受付のおばちゃんに
入浴料を払って中に入ると、オレンジ色のタイル浴槽に無色透明の湯が掛け流されている。
弱い硫黄臭で薄い硫黄味、ひょっとしたら温度を下げるために加水しているかもしれない。
適温の湯にのんびりつかって出てくると、おばちゃんが「熱くなかった?」と心配してくれた。
地元の人はしびれるような熱い湯が好きだが、それだと観光客には熱すぎる、そのバランスが
難しいとおばちゃんが言っていた。いつも思うが、こういうところではよそ者が地元の流儀に
合わせるべきだと思う。昔から熱い湯を愛し、守り続けてきた地元の人が、
観光客に合わせてぬるい湯に入らされるなんておかしな話だ。

区営鰻温泉外観 浴室
鰻温泉を後にして指宿市内へ入り、レンタカーを返しに指宿営業所へ。が、オイオイ、営業所には
担当者が誰もいない。なんとかしてよ、とレンタカーの鹿児島本店に電話で怒ったったら、
ようやく指宿営業所におっさんが戻ってきた。けっこう待ったんだけどねえ、これから電車で
移動しなかんのにさ、と文句言ってやったら、よかったら宿泊先まで送ってやると言ってくれた。
やった!「山川駅前の「くり屋」までよろしく!」
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