男の旅は一人旅 薩摩編 2
山川駅の目の前にあるくり屋食堂は、本業である食堂のかたわら旅館も経営しており、
「日本一安い宿」をウリにしている。その日本一安い素泊まり1580円の部屋が空いてなかった
ので、今回は日本で二番目に安い2350円の部屋に泊まることにした。どんなボロ家なんだろうと
ちょっとドキドキしてきたのだが、最近リニューアルされたようでピカピカになっていた。
ここの風呂にはれっきとした温泉「成川温泉」が引かれており、期待して風呂場へ行ってみて
唖然。脱衣場入り口に脱ぎ散らかした大量のスパイク。浴室には筋肉ムキムキの体育会系の
男たちで大混雑。この宿はその料金の安さから運動部などの合宿に使われることが多いらしく、
この日も3団体ほどが合宿をしていた。湯船の湯は少なくなってぬるくなっており、その湯船は
筋肉男たちでイモ洗い。とても湯を鑑賞する状態じゃない!湯口の湯が弱い塩味であることを
確認すると、浴室から退散した。
夕食は食堂で好きなものを注文して食べる。とりあえずくり屋名物のカツオのタタキ。
ツヤツヤしたカツオに特製のタレ、アホみたいに大量にのせられたニンニクとタマネギ。
ニンニク好きの俺にはたまらない!さらにカツオの腹皮焼き、マグロのかま焼きを頼んで
ャンジャン生ビール飲んで、最後はチャンポンで締め。最高だ。

くり屋外観 カツオのタタキ

かま焼き ちゃんぽん
翌朝、猛烈なニンニクとタマネギの口臭で目が覚めた。最悪な寝起きだ・・・。
気を取り直して荷物をまとめ、山川駅発鹿児島中央行きの列車に乗り込んで指宿へと向かった。
指宿市の二月田駅で下車。駅員に道を尋ね、10分ほど歩いて二月田温泉に到着。
かつてこの二月田には薩摩藩主・島津家の温泉別宅が置かれており、現在もその頃の浴場跡が
史跡として残されている。野ざらしになってはいるが、石造りの湯船や床にはめ込まれた
タイルなどが当時のまま保存されており、浴場入口の石には「足軽以下是より先に入るべからず」と
刻まれている。そんな島津の殿様のほれ込んだ湯とはどんな湯だったのか。史跡の隣に建つ
共同浴場「殿様湯」で現在もその湯につかることができる。その浴舎の入口には歴代藩主の名前が
書き連ねられ、飲泉所には島津斉彬が薩摩に水道を引いた際に用いられた石樋が使われているなど、
いろんなところに歴史を感じることができる。番台がないので、入浴料金は隣にあるタバコ屋で
払うシステム。浴室に入ると、温泉成分で赤茶色に変色した石造りの重厚な湯船には、丸に十文字の
島津家の家紋が。いったん湯溜めに入れられてから湯船に掛け流される湯は暗緑色の濁り湯で
土類系の金気臭、味は薄い金気味に加えてスープのような塩味。これがけっこううまい!
朝の寝ぼけた体が引き締まるじーんと熱い湯で、土類金属の香りが湯の個性を主張している。
熱くなって木の枕を使って床に寝転がると、掛け流されて湯船からあふれた湯が背中を洗い、
気持ちいい。さすがは殿様お気に入りの湯、爽快な朝湯となった。

殿様湯跡 当時のタイル

殿様湯外観 浴槽には島津家の家紋
次の湯を目指して二月田駅から指宿駅方面へと歩いていると、しとしとと雨が降り出した。
コンビニで傘を買い、向かった先は弥次ヶ湯温泉。着いてみるとけっこう大きなしぶーい鄙びた
木造の湯小屋。「雨になりましたね」と迎えてくれた湯守のおばあちゃんに話を聞いてみると、
この浴場では昔から自然湧出する湯を加水せず掛け流しにしている「弥次ヶ湯」と、掘削した際に
大黒様の置物と一緒に出てきた新源泉「大黒湯」の2本の源泉を利用しており、浴室も源泉ごとに
別々になっているとのこと。まず大黒湯に入ってみると、脱衣棚には近所の常連さんの洗面器や
石鹸がたくさん置きっぱなしになっており、地域密着度が感じられる。浴室にはしぶいコンクリート
湯船がひとつあり、成分の影響で茶色に変色している。湯は緑褐色の笹濁り、金気臭で金気+塩味。
この大黒湯は水で埋めて温度を下げれるようになっている為ぬるめで、のんびりつかるのに最適。
じっくりとつかってしまった。
弥次ヶ湯のほうも渋い浴槽にモスグリーンの湯が掛け流し。加水がない分、大黒湯より土類金気の
香りも強く、そして熱い。ジリジリと体に染み込むあつ湯に耐えられなくなったら、枕木を使って
横になる。なんて贅沢な時間なんだ!雨宿りがてら、予定よりものんびりとつかってしまった。

弥次ヶ湯温泉外観 浴室
弥次ヶ湯温泉を後にして、雨の中をさらに南の方へと歩いていくと、村之湯温泉という浴場に
たどり着いた。看板は古びていい味を醸し出しており、浴場内はそれを醗酵させたような更に
いい味が出ている。木造の屋根構造がそのまま露わになった天井、脱衣場と一体化された浴室には
2つの湯船。手前の湯船に入ろうとすると、先客のおじいちゃんが「そこ熱いよ!」。その湯船は
源泉がガンガン投入されるあつ湯とのことで、奥のほうの湯船は、源泉を加水せず冷ましたぬる湯
だという。ぬる湯のほうに入って体を温めた後、あつ湯のほうに入ってみるとこれが熱い!バチーンと
ひっぱたかれたように熱い湯は無色透明、わずかに金気臭がする。たまらず湯からあがると、
「のみ湯」というコーナーを発見。「飲泉用」とかじゃなくて「のみ湯」っていう響きがいい!
コップがないので桶で飲んでみると弱い塩味でなかなか美味しい。浴場内に書かれた温泉の歴史を
読むと、西郷隆盛もこの湯に入ったとのことで、脱衣場には西郷の肖像写真が掲げられていた。
それにしても西郷どん、いろんな温泉に出没しとるなあ。

村之湯温泉外観 浴室
それにしても指宿市内を徘徊していると道端から湯煙が上がっており、温泉都市・指宿のパワーが
実感できる。用水路にも温泉が流れ込んでもうもうと湯気をあげている。きっといい湯加減に
なっているにちがいない。この用水路に入ってみたいぞ!
腹が減ったので何か食おうと指宿駅前の商店街に行ってみるとこっちまで悲しくなってくるような光景。
誰一人歩いてないやん。仕方なくとぼとぼと歩いて見つけたラーメン屋でとんこつ味ラーメンを注文。
とんこつラーメンじゃなくてとんこつ「味」ラーメンってのが気になったが、出てきたものは豚骨の
旨みよりも化学調味料的な塩辛さが前面に出ており、麺も伸びきっている。これは合格点やれんなあ・・・。

湯気の立つ用水路 ちょっとはずれだったラーメン
さて、いよいよ指宿名物・砂むしを体験することにした。「砂むし会館砂楽」という立派な施設の
2階にアクセスして受付を済ませると、水色の専用浴衣を渡される。1階に下りて裸の上に浴衣を羽織り、
建物から出て砂浜へと歩いていくと、浜からは至る所から湯が湧いているらしく、波打ち際からモクモクと
湯煙があがっている。そんな海の見える砂浜に雨除けのテント屋根が架けられた砂むしエリアが
設けられていて、たくさんの人が砂むしされていた。さっそく砂の上に寝転んでみると、砂掛けの
おばちゃんがスコップでうまいこと体に砂をかけてくれる。こんもりと盛られた砂の上に頭だけ出して
横になっていると、そのうち地熱で背中がジリジリと焼けるように熱くなり、脇の下あたりの血管が
ドクドク脈打ってきてカーッと体がほてってきて、首筋をタラーッと汗が流れ落ちる。15分が経過、
もう限界!というところで砂から這い出すと、浴衣は全身にかいた汗と砂でベタベタになっており、
海からの風が気持ちいい。建物に戻り、大浴場で砂を洗い流す。ここにはちょっとしょっぱい食塩泉が
引かれており、汗をかいた後にドボンとつかるとこれが気持ちいい。体内の悪いモノがきれいさっぱり
出て行ったような、爽快な気分になった。

砂むし風景 やや放心状態
指宿でもう一湯。砂むし会館の近くにある共同浴場「元湯」に入湯。昔ながらの銭湯、って感じの
外観で、浴室には石でできた2つの湯船。成分で赤茶色に染まった岩が積み上げられた湯口からは
激熱の源泉が掛け流しになっている。湯は無色透明、海水のような潮の香りがして、苦くて
塩辛い味。カルシウム系もけっこう入ってそうだなあって感じのなかなか濃厚な食塩泉に
のんびりとつかることができた。

元湯外観 浴室
元湯を出ると、雨が上がって日が射してきた。さすがは南国・指宿、11月だというのに半袖が
心地いい陽気だ。指宿駅まで歩くと、JR指宿枕崎線の特別快速「なのはなDX」に乗って一気に
鹿児島中央駅へ。薩摩半島を反時計回りにぐるりとひとまわりしてきたことになる。鹿児島中央に
着くと今度は駅前から水族館行きのバスに乗り終点で下車。この旅最後の温泉に入ろうと、
フェリーターミナルから桜島行きのフェリーに乗り込んだ。

指宿駅 なのはなDX号

桜島 桜島フェリー
桜島フェリーは意外にも「いかにも観光船!」みたいな感じ。波静かな錦江湾のかなたの雄大な
桜島が迫ってきたかと思うと15分ほどで到着。バスに乗り換えて古里温泉「古里観光ホテル」に
行こうと観光案内所に尋ねてみたら、宿の無料送迎バスに乗れば路線バスよりもお金も時間も
かからないことが判明。ほどなく到着した送迎バスに乗ると、15分ほどで古里観光ホテルに到着。
思ったより大型のホテルで、立ち寄り入浴を申し出るととても丁寧に応対してくれた。このホテルは
断崖に建っており、海の横の名物露天風呂にはなんと専用斜行エレベーターでアクセスするという。
その露天風呂は「龍神露天風呂」と銘打たれており、樹齢二百余年というアコウの大木を神木として
龍神を祀る神社があるという神聖な露天風呂で、専用の白い浴衣を着て入浴するという男女混浴の湯。
脱衣場で浴衣に着替えて露天風呂へ行くとそこには感動的な風景!錦江湾のすぐ横に岩の露天風呂が
夕日をバックにしてキラキラと輝いとる。海と反対の崖側にはガジュマルの木に似た大きなアコウの木、
そして龍神を祀る神社の鳥居。無色透明でうっすら塩味の湯は熱くもぬるくもないちょうどいい適温。
もう泉質がどうとかいうよりすばらしい開放感の絶景露天風呂。
旅の最後を飾るのにふさわしい極楽湯となった。

古里温泉露天風呂 ご満悦
フェリーとバスに乗って再び鹿児島市街へ戻ってきた。だが薩摩の一人旅を終えるにはまだひとつ
忘れていることがある。鹿児島に来てまだ大好物の芋焼酎を飲んでいないのだ。鹿児島市の繁華街・
天文館で、鹿児島出身のO先輩に電話してみる。
「今天文館なんですけど、どっかうまい焼酎飲める店教えてくださいよー。」
「うーん、あんまり天文館で飲んでなかったんよねー。」
なんて使えない先輩なんだ!しょうがないのでえいっ!と狙いを定めて黒豚料理専門店「黒福多」へ。
まず軽くビールを飲むと、付出しは薩摩地鶏のタタキ。ビールを飲み終えると今度は芋焼酎「なかむら」を
ロックで。芋の心地いい香り、そして少し舌に刺激のある辛口で、飲み干した後もう一度鼻から抜けてくる
芋の芳醇な香りがたまらない。なんせ俺はこの飲んだ後鼻に抜ける香りが芋焼酎の醍醐味だと思っている。
黒豚の冷しゃぶと豚バラ串焼きをつまみにチビチビと飲む。最高やなー。
芋焼酎の後の締めはやっぱり鹿児島ラーメン。繁華街の裏道をうろつくと、「こむらさき」や「和田家」
といったラーメン屋が。そういえばO先輩、「こむらさき」よりは「和田家」のほうが好きだって
言ってたのを思い出し、ここは迷わず敢えて「こむらさき」へ。うーん、ノーマルなラーメンで900円かあ、
なかなかやるなー。出てきたラーメンは豚骨スープに細い麺、細かいキャベツと焼き豚がたくさん乗っている。
うーん、うまい!これだから男の一人旅はやめられない。

黒豚料理と芋焼酎 ラーメン「こむらさき」
今回の旅もいい温泉とうまい飯に大満足だった。が、鹿児島には大隈半島やたくさんの島々にも
温泉が湧いているし、なにより霧島という温泉の宝庫が残っている。やり残したことの多すぎる俺は
まだまだ鹿児島を訪れる気満々である。おわり。
男の旅は一人旅へ