男の旅は一人旅 島根編 1
山陰の温泉といえば?とそこらへんの人に聞いてみたら
どんな答えが返ってくるだろうか。うーん、と考えてやっと皆生温泉や三朝温泉の
名が出てくればいいほうで、一つも知らないって人、けっこういるのではないだろうか。
皆生や三朝は鳥取県の温泉。じゃあ質問を変えて島根県の温泉といえば?と聞いてみたら、
更に答えられない人が増えるんだろう。と言うと島根というのはそんなに温泉不毛の地なのか、
と誤解を招きそうだが、実際のところ島根はかなり良質な湯が湧く温泉県である。
なのになぜ世間に知られてないのか。それは島根の温泉は観光客相手の歓楽温泉というよりは、
療養客相手の湯治場が多いためだと思う。全国の皆さん、どんどん島根の温泉においで下さい、
なんていう観光PRとは無縁の、昔からの常連客を大切にする静かな湯宿。
そんな山陰の湯治場に行ってみたい、と無性に思った。無性に思ったら行くしかないでしょ。
しかも出雲地方ではなく島根県西部の石見地方、つまり普通の生活を送っている人なら
その存在すらよく知らないエリアが俺の一人旅にはふさわしい。
11月第一週の3連休、早朝6時に出発。阪和道、近畿道から中国道に入り、宝塚までの
渋滞を抜けるとあとは快適なドライブ。兵庫、岡山を通過し、広島に入るとほとんど
車の姿は無くなり、この道こんなんで大丈夫なんか、オイ、と心配になってくるが、
紅葉が始まった中国山地にはさまれた道をすいすい走るのは気分がいい。
広島県の三次インターでおり、一般道を山奥のほうへ走り出すと、三次市内は大渋滞。
見るとアスファルトの張替やっとる。そんなくだらん工事、3連休にやるな!
渋滞を切り抜けてひたすら松江方面へ北上、島根県に入ったあたりで看板を頼りに
脇道に入り、車一台分ほどの道幅をのろのろ進むと10時30分、
ようやくめざす山奥の一軒宿、千原温泉に到着した。
千原温泉には湯守のおばあちゃんがいて、体のどこが悪いのか聞いてくるという
噂を耳にしていた。そこで、別に健康だけどちょっと温泉につかろうと思って、
なんて答えたら門前払い。嘘でもどこそこの調子が思わしくなくて、と答えておくと
その病気にあった入浴方法を事細かに教えてくれるのだという。この温泉は
物見遊山の場じゃない、温泉に宿る不思議な力で病を治そうとする者が来るところだ、
という思想が伝わってくる逸話だ。だから俺も一応、持病を持っていることにして
こう聞かれたらこう答えようみたいなことは考えてきた。が、出てきたのはおばちゃんで
すんなり入浴できた。トイレも新しく作られており、どちらかというと日帰り入浴歓迎と
いった感じで拍子抜けした。後で知ったのだが、この千原温泉、旅館としての営業は止め、
今では日帰り入浴専門の施設となっているとのこと。まあそんなことはどうでもいい。
脱衣場で服を脱ぎ、階段を数段下りて浴室へ。おおー!
浴槽にはカフェオレのような黄土色の不透明な湯が満たされており、その縁には赤茶色の
析出物がこびりついている。そしてその湯はひっきりなしに大きな気泡があがってきては
水面でぽこっぽこっと音を立てて炭酸がはじけとる!この湯船は源泉が湧く土の上に木を組んで
つくられた足下湧出。34.5℃の生まれたての新鮮な源泉に直につかれるというわけだ。
そしてその湯船は、赤茶色と緑の析出成分がこびりついている。湯につかってみると
かなりぬるめの気持いい温度。1時間でも2時間でもつかれそうだ。
泉質は含二酸化炭素-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉。ちょっときしみ感のある
肌触りで、なめてみると舌にビリッと刺激を感じるほど強い炭酸味。炭酸臭も強い。
あまりの気持ちよさに予定時間を大幅に延長してのんびりとつかった。ぬるい湯だが、
炭酸が体の毛細血管を刺激するらしく、体が温まってくるのがわかる。
ふと壁の貼り紙を見ると「むし暑いときには炭酸ガスがたまって息苦しくなります。
必ず備え付けの扇風機で風を送ってください。」とある。しえー!おそるべき炭酸パワーだ。
最後に沸かし湯の釜風呂に入って上がることにした。釜風呂は男女共用で一つしかなく、
しかもビニールカーテンで仕切れらているのみ。蓋を取ると湯の表面にカルシウム成分が
かたまって白い膜ができとる!湯は熱めに加熱されており、備え付けのバケツでぬるい源泉を
足して温度調節。じっくりとあたたまった。よくもまあこんなすばらしい状態で
いままで残っていたと思わせるすばらしい温泉だ。世界遺産クラスじゃないだろうか。

黄土色の濃厚湯 釜風呂
千原温泉の余韻に酔いながら、車を大田市方面に走らせて、湯抱温泉へ。
数軒の宿がくたびれた温泉街を形成している。立ち寄り入浴をお願いしたが、
2軒連続して準備ができていないと断られた。だが、ここまで来て簡単には
引き下がれない。一縷の望みを託して日の出旅館でお願いしてみると、
ちょっとぬるめだが女湯の準備ならできているとのこと。ぜひ、とお願いすると
快く許可してくれた。浴室に入ると湯船は析出成分でゴテゴテ、床も百枚皿のように
成分が固まっており、しかも湯の表面にはカルシウムが白い膜状に結晶しており、
無性に興奮してくる要素が目白押しだ。湯は黄土色不透明。24℃の
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉をぬるめに湧かしてある。
臭いはあまり強くなく、味は薄い金気臭。ぬるくてのんびりとつかってしまった。
帰りに男湯ものぞいてみると、やっぱり浴室は温泉成分でとんでもないことになっていた。

女湯浴室 源泉湯口

コテコテの浴槽 男湯もコテコテ
うーん、やはり島根の温泉は深い。続いて向かうのは三瓶山の麓に湧く三瓶温泉。
かつては志学温泉と呼ばれた温泉で、寛政年間には既に湯治場があったという記録があり、
現在は宿や土産物屋で温泉街ができている。街の中心にある共同浴場・志学薬師湯へ。
小さな浴室で、湯口から注がれる無色透明の源泉は、浴槽内で酸化して薄茶色に変色している。
ナトリウム-塩化物泉で、ぬるい源泉がそのまま注がれ、加熱湯は浴槽内から噴出されて適温に。
土類系の金気臭、味も弱い金気臭で、気持ちよくつかることができた。湯上がりに
建物の裏にある湧き水を飲んでみるとこれがしっかりした炭酸水。がぶのみした。

志学薬師湯外観 浴室
期待を裏切らない温泉の連続に感涙状態で運転していると、雄大な風景に思わず車を止めた。
西の原という場所で、大きな山が迫っている。三瓶山である。男三瓶、女三瓶、子三瓶の
3つの山を総称して三瓶山と呼んでいるようだ。西の原は1126mの男三瓶と961mの子三瓶の
間に広がっており、一面のススキだ。2時すぎだったが、みんなススキ野原で弁当を広げて食べている。
と、ここで今日まだ昼食を食べていないことに気づいた。が、温泉の誘惑には勝てない。
先を急ぐことにした。

子三瓶 西の原
次に向かったのは小屋原温泉の一軒宿・熊谷旅館。県道から逸れて山奥へ入っていくと
三瓶から沿いに一軒宿がぽつんと建っている。約200年前の寛政年間の開湯で、
熊谷旅館は現在で13代目だという。受付で入浴料を払い、浴室棟へ。
この旅館には大浴場というものがない。部屋数5に対し4つの貸切風呂があるのみ。
鄙びた廊下に対して4つ並列している浴室のうち、どこでも空いているところへ自由に入浴できる。
まずは一番手前の浴室に突入。脱衣場で服を脱ぐと立て札に度肝を抜かれた。炭酸ガスの発生が
多いため、「息苦しいときは川側の窓を少し開けて入浴してください。」しえー!ここも
一つ間違えたら窒息かよ!浴室にはいると、小さな浴槽は温泉成分で赤茶色に染まり、
ゴテゴテのものすごい状態になっている。掛け流しの湯はやや白濁の笹濁り、ぬるめの
気持いい湯で、肌触りがやわらかい。炭酸の臭いがし、なめてみると舌にピリリとくる炭酸味で、
天然サイダー状態。泉質は含二酸化炭素-ナトリウム・マグネシウム-塩化物・炭酸水素塩泉。
しばし時間を忘れて静かにつかっていると、体中に細かい気泡がついていた。
炭酸ガスが体毛に付着してどんどん大きく成長している。さすがに炭酸は濃いようだ。

一番手前の浴室 ディテール
他の浴室にも入ってみたくて、2番目に手前の浴室に行ってみた。2人入るのがやっとという
小さなコンクリート浴槽は、析出成分でわけがわからないくらいコーティングされている。
ざぶんとつかると、「!」。すぐに体に気泡がつきはじめ、どんどん大きくなっていく。
さっきの浴室とは泡の付き方が全然違う!あっという間に全身アワアワ状態。
気泡のつきにくい手のひらにもどんどんアワがつく。多分、こっちの浴室の方が源泉に近く、
湯が新鮮で炭酸ガスの残存も多いのだろう。これはいい!湯がぬるめでいつまでものんびりと
全身子持ち昆布のような状態になりながらこの湯を堪能した。ここも世界遺産級だ!

二番目に手前の浴室 アワアワ状態の手
そろそろ日も落ちてきた。急いで池田ラジウム鉱泉に向かう。ひなびた旅館で、
貸切制の浴室が2つ。あいにく2つともふさがっていたが、先客のおじいちゃんのご厚意で
いっしょに入らせてもらえた。小さな浴室にうっすらと茶色に濁った湯がはられており、
冷たい源泉を浴槽内で湧かしているという理想的な湯の使い方がなされている。
泉質は含放射能-ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩泉。放射能6400マッヘは
文句なしに世界一のラジウム含有量である。と、いうことは、温泉につかりながら
ごく弱いながらも被爆していることになる。しえー!この放射線のパワーが病に
不思議な治癒力をもたらすのだという。冷たい源泉をなめてみると舌に刺激のある炭酸味で、
塩分も感じる。ぬるめの湯に長時間入浴でしっかり温まった。世界一の放射能泉に大満足だ。
池田ラジウム鉱泉を後にし、大田市街へ出ると国道9号線を西へ。
今日の宿泊地・温泉津温泉へ車を急がせた。

外観 浴室
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