男の旅は一人旅 島根編 3
益田市街から車で15分くらいで、とんでもない山の中へ入ってきてしまった。
道幅の狭いくねくねの道をすすむと、大谷温泉の一軒宿・かじか荘に到着。
古ぼけた館内は、まるでくたびれた国民宿舎といった感じ。3階の紅梅という
部屋に通された。六畳の和室で風呂とトイレがついている。温泉旅館に来てるのに、
なんで普通の湯の風呂が部屋にあるんだ?!と、部屋に入った瞬間、異様な臭いが。
この臭いはまさか・・・。やっぱり!部屋中にたくさんのカメムシがおる!しえー!
「あれ、また入ってきてる。さっききれいにつかまえたんですけどねえ」仲居さんが
手慣れた手つきで10匹ほどカメムシを駆除した。サッシもしっかりしまっているし、
どこから入ってくるのかわからないという。この部屋は角部屋なので、カメムシが
多めに入ってきやすいんですよ、と言っていた。そんな部屋に泊めるなよ、オイ!
カメムシを駆除するとおばちゃん、お茶も入れずに帰っていっちゃった。
そんな接客あるかよ。

かじか荘外観 部屋
気を取り直して風呂へ行ってみることにした。いったん1階に下りた後、再び2階レベルに
上がるというストレスのたまる動線になっている。浴室は3つ。手前の大浴場は無色透明の湯が
はられており、無味無臭。特に印象に残ることはない。その奥に小浴場、さらにその奥には
「治療湯」という浴室があった。治療湯?!名前が気になって行ってみると、狭い浴室に
人一人入ったらいっぱいになってしまうタイル浴槽。薄茶色半透明の湯が満たされ、
浴槽内で湯が噴出しているらしく、一定の時間をおいて空気のアワがぶくぶくとあがっている。
ぬるめに加熱された湯で、なんだか薬臭がする。このぬるい湯に長くつかっていると
薬効が体にしみ込むところから治療湯というのだろうか。温泉成分で石鹸が効かないようで、
石鹸、シャンプーの類はおいていない。別に気に入った湯ではないが、それなりに個性はある。
小浴場をのぞくと、治療湯とほとんどいっしょやないかい!だがよく見ると、小浴場の浴槽の方が
ほんのすこし大きめで、温度もちょっと高めのようだ。

大浴場 治療湯
部屋に帰りごろんとしていると、やっぱりどこからともなくカメムシが侵入しており、
20匹ほど捕獲した。なんなんだ、この部屋は!さて、7時に頼んだ夕食が来る前に
もう一風呂浴びようとしていると、6時半に夕食を運んできた。7時に頼んだはずだと
追い返し、もう一度風呂からあがって7時に食事にかかった。山海の幸が並び、
なかなか悪くない料理だ。が、ビールを追加すると5分以上持ってこない。催促の電話で
やっともってくる有様で、接客のレベルは低い。それでも一泊二食7000円の低料金で
これくらいの料理が部屋食で食べられたらいつもなら充分満足するし、接客係も話してみると
嫌な人じゃないのでなんとか許せる範囲だが、カメムシだけはまいった。
これは客を泊める部屋ではない。多少田舎にいけば虫はいるものだが、限度というものがある。
もう少し対策を講じるべきだろう。朝一番で朝食を取り、早々に出発した。

夕食 朝食
国道9号線を山口方面へ走り、山陰の小京都・津和野へ立ち寄った。白壁と
赤い石見瓦の町並みが続く城下町。森鴎外の出生地としても知られている。
とりあえず太鼓谷稲成神社へ行ってみた。ここには有名な千本鳥居があり、
紅葉が始まった木々との調和が艶やか。日本の赤、って感じの風景だ。

太鼓谷稲成神社
4万3千石の城下町・津和野には、長崎の隠れキリシタンの流刑地であったという
もう一つの歴史がある。153人が廃寺の急造牢獄に収容・拷問され、
36人の殉教者を出した。その廃寺跡に建てられたのが乙女峠マリア聖堂。
津和野駅からものすごく急な山道を少し登ると、拍子抜けするほど小さな
和洋折衷の教会があり、そのすぐ横にある、檻にとらわれた人に手をさしのべる
マリア像が、禁教の悲史を物語っていた。

乙女峠マリア聖堂
津和野を後にし、さらに山口県方面へ進んで柚木慈生温泉へ。昭和60年湧出の
比較的新しい温泉だ。食品雑貨店の建設作業中に偶然湯が湧出。調べてみるとこれが
とんでもない温泉で、リチウムイオンは温泉法基準値の3倍、遊離二酸化炭素は7倍という
強烈濃厚湯だったため、療養目的の宿としてオープンしたらしい。実はここに泊まりたくて
予約の電話をしてみたところ、数ヶ月先まで予約でいっぱいですと断られた。
それほどここの湯の評判が良く、湯治客が後を絶たないということだ。
営業開始の10時に行ってみると、もう7人ほどの先客がいた。浴槽は8人が入ればいっぱいの
小さなものがひとつ。少し緑がかった薄茶色笹濁りの湯があふれている。湯は金気臭で
塩気のある炭酸味。含二酸化炭素-カルシウム・ナトリウム-塩化物・炭酸水素冷鉱泉。
17℃の源泉を加熱している。あつくもぬるくもない絶妙の人肌で、いつまでも入っていたくなる。
そして湯に入った瞬間からどんどん気泡がつきはじめる。あっというまに全身気泡だらけ。
これはすごい!のんびりつかっていると、大きくなったアワがポロッととれて気持ちいい。
先客のおっさんたち全員、じーっと浴槽の中で長時間つかっている。みんなここの湯は
足腰の痛みがよく治る、家の近所にも温泉があるが遠くてもここの湯につかりに来ると
絶賛している。ほんとにいつまでも入っていられる極楽湯。アワアワもすごい。
ほんとに濃い炭酸成分なんだなあ、と満足して風呂からあがった。が、後から聞いた事実に
愕然となった。なんとここの湯はあまりにも成分が濃すぎ、源泉のままでは
体への影響が強すぎるので水で2倍に薄めて使っているのだという。あのアワアワ濃厚湯が
水で希釈されていたとは。とても信じられない。おそるべきパワーだ。
一度でいいから薄めない源泉につかってみたい!それで体がおかしくなってもかまわない!

外観 浴室棟入口
柚木慈生温泉のある山口県徳地町から細い山中の道を通って島根県柿木村へ。
村営の入浴施設・柿木温泉はとの湯荘へ立ち寄ることにした。浴室には無色透明の
上がり湯、そして岩を組んだ大きな湯船には柿のように鮮やかなオレンジ色の湯が
湛えられている。泉質は塩化物・炭酸水素塩泉。それにしてもすごい色だ。
浴槽も床も温泉成分が固まってオレンジのゴテゴテ状態。湯はぬるめの加熱湯で、
湯口からはぬるい源泉が注がれている。酸化変色する前の無色透明で、金気臭、
炭酸味。肌触りがやわらかく、とてもよく温まる湯だった。
いよいよこの旅最後の温泉となる木部谷温泉松乃湯に向かう。ここは間欠泉で
湧き出す源泉をそのまま湯船に注いでいる日本でも珍しい温泉である。
宿の建物の裏手へ2、3分登っていくと間欠泉がある。この間欠泉は
炭酸ガスの圧力で吹き上がるという珍しいもので、25分間隔で
約5分吹き上がる。よっぽどタイミングが良くないと見れないな、と思っていたが
何と運良く間欠泉が上がる場面に遭遇できた。1メートルほどの湯柱を立てて
白い飛沫をとばしながらシュワーと吹き上がっている。その源泉はいったん池のような
湯たまりにたまるが、その湯は黄土色に変色してしまっている。湯はさらに
湯道をオレンジ色に染めながら山道沿いを流れ落ち、下の宿へと引かれているわけである。
浴室に入ってみると、5人分くらいのせまい浴槽にオレンジ色の湯が満ちており、
冷たい源泉が注がれている。湧いたばかりの間欠泉から引かれる源泉は
ピリッとくる炭酸味に加えて塩分を感じる。源泉そのままをそろりと湯船へ入れて
浴槽内で蒸気加熱しているというすばらしい使い方には感動すら覚える。
ぬるめの湯にのんびりとつかり、この旅を締めくくった。

外観 画面中央上部で間欠泉が噴出!

間欠泉 流れ落ちてきた源泉
中国自動車道六日市インターから帰路につく。はっきりいって俺は島根を
完全に侮っていた。想像をはるかに超える強烈個性派濃厚湯のオンパレード。
俺は完全に島根ファンになってしまった。俺にはこのすばらしい温泉たちを
必ず再訪する必要がある。俺はまだまだ島根を訪れる気満々である。
おわり。
男の旅は一人旅へ