男の旅は一人旅 下北編 1

2004年9月24日、29回目の誕生日を迎えることになった俺。バースデー割引の航空券使って、
どっかいい温泉があってうまいもの食えて自然が雄大なとこに行きたいなーと思い立った時、
なぜかその行き先は自分の中では下北半島しかないでしょ、ってことになった。
っていうか無性に行きたかったんよ、下北半島。

青森空港に降り立つとレンタカーを借り、一路下北へ。やたら海に近い海岸線の道を
延々と走り続ける。窓を開ければ、気温は16℃。名古屋より10℃も低い!気分よく快適に
運転し続けること2時間、下北観光の拠点・むつ市に到着した。とりあえず下北観光物産館
「まさかりプラザ」へ。なんで名前が「まさかり」なんだよ、と思っていたのだが、
地図をよく見て納得、下北半島はまさにまさかりの形をしていて、まさかり半島の別名さえ
あるらしい。さっそく2階の食事処「まさかり」へ。ここの名物は下北の9市町村の名を冠した
9種類の定食。例えば大間定食ならマグロづくし、大畑定食ならイカづくし、川内定食なら
ホタテづくしといったふうに、その町の名物が味わえるという趣向になっている。
俺の注文したむつ定食は、イカとホタテの刺身、ニシンの黄金漬を従えてメインは味噌貝焼き。
下北半島全域で味わえる代表的な郷土料理で、貝焼きと書いて地元の人は「カヤギ」と
読むらしい。ホタテの貝殻を器にして、ホタテ、ウニ、イカといった海産物や野菜、豆腐などを
味噌と一緒に温めて、ぐつぐついってきたところで卵でとじて食べる。大阪では各家庭に
タコ焼き器があるなんていうウソのようなホントの話があるが、下北ではどの家にも使い込まれた
ホタテの器があるという。さっそく食べてみるとアツアツでうまい!もちろん刺身もうまい。
確実にご飯3杯は食べられたが、俺は内気なのでおかわりは止めといた。


むつ定食           味噌貝焼き

腹がふくれたところで今日の第一湯・奥薬研温泉に向かう。大畑町の山の中にある薬研温泉は、
温泉の湧出口が漢方薬を粉にする「薬研」という道具に似ていることからその名がついたという。
その薬研温泉から更に奥へと車を進めると奥薬研温泉に到着。有名な露天風呂に入っていくことにした。
まず無料の混浴露天風呂「かっぱの湯」。駐車場から湯の股川の方へと下りていくと、木々に囲まれた
渓流沿いに石を組んだ湯船があり、その縁には黒い石でできた一匹のかっぱの像もある。湯船には
やや緑がかった透明な湯がたっぷり。ほんのり温泉臭のする湯はじーんとくる熱めだが、水と緑を
見ながらの入浴は気持ちいい。この旅最初の温泉、ヒバ林の中の川沿い露天風呂で開放感満点の温泉に
つかっていると、ようやく青森にきたんだなーという実感がひしひしと沸いてきた。


かっぱの湯でご満悦      かっぱ君

さらに少し奥へ進むと、奥薬研レストハウスに併設された「夫婦かっぱの湯」に到着。こちらは
男女別の露天風呂でやはり渓流と緑を見ながら少しぬるめの湯にのんびりとつかれる。ご丁寧に
夫婦のかっぱ像もちゃんとあった。無色透明の単純温泉。かっぱの湯よりは人工的なつくりだが、
これはこれでなかなか気持いい湯浴みができた。


夫婦かっぱの湯        夫婦のかっぱ君

帰り道、「かっぱの湯」を過ぎた辺りでやたらに路上駐車の車がある。車を止めてみると、なんと
川沿いに非常にオープンな露天風呂があり、おっさんやおばちゃんが体洗っとる!観光客には
あまり知られておらず主に地元の人が利用しており、名前も「隠れかっぱの湯」とか「龍神の湯」とか
呼ばれているらしい。ガードレールのすきまから川のほうへ下りていくと、地元の皆さんが快く
迎えてくれた。四角いタイル浴槽と岩風呂がある混浴露天風呂でもちろん無料。無色透明の熱い湯が
どんどん掛け流されており気持ちがいい。穴場の温泉の発見に大満足だ。


隠れかっぱの湯

大畑町を後にし、海岸線の道をどんどん北上。風間浦村へ入ると今夜の宿がある下風呂温泉に到着した。
下風呂というのはアイヌ語のシュマ(岩)とフラ(臭い)が語源で、室町時代から傷に効く湯治場として
知られていたという。さっそく共同浴場のひとつ、大湯に行ってみた。浴室にはあつめとぬるめの
2つの浴槽、水色のペンキで塗られておりプールみたい。ぬるめから入り、続いてあつめの方へ
入ってみるとこれが熱い!46℃くらい、いやもっとあるんじゃないだろうか。ビシッと身が引き締まる
あつ湯だ。どんどん掛け流される湯はほんのりと白濁しており硫黄の臭い、なめてみると酸味が
感じられる。いやーこれは熱い!ざばーっと湯からあがり、青森ヒバの床に寝転がる。この床の感触が
気持ちいいなー。いつまでもゴロゴロしていたくなる。地元のおっさんたちも湯につかってはあがってを
繰り返し、のんびりと世間話しているが、その下北弁はほとんどまったく聞き取ることができなかった。


下風呂温泉大湯

大湯からあがり海辺を散歩していると、「活イカ備蓄センター」なる施設を発見。見ればサーキットの
ような水槽があり、ここで自分の買ったイカを泳がせて勝敗を競う「烏賊様レース」が行われるという
ではないか。しかもただイカを泳がせるだけでなく、参加者は自分のイカにムチを入れてスタートダッシュを
掛けるという。イカオーナーは頑張って泳ぎきった自分のイカをレース後に刺身で食べちゃうこともできるし、
オーナーじゃない人も馬券ならぬ「勝ちイカ投票券」を買って応援できるらしい。これはかなり面白そうだ。
レース開始予定は17時からだが、イカオーナー6人が揃えばすぐレースが始まるらしい。こうなったら
イカオーナーになるしかない。誰か俺のイカに挑戦する5人はいねえか、オイ!と思ってずーっと待っていたが、
まったく人がやってくる気配がない。もう17時が近づいているというのにこれじゃレース成立せんがな!
待ちくたびれた俺は、とうとうその哀愁漂うイカサーキットを後にした。


哀愁漂う烏賊様レース場

そろそろ今日の宿・長谷旅館にチェックインすることにした。長谷旅館は地元の人には「カクチョウ」の
通称で呼ばれており、作家・井上靖が小説「海峡」を執筆した宿として知られている。玄関を入った瞬間、
硫黄の臭いが。これはいい!今日の部屋は1階の一番奥で、窓の外には津軽海峡。荒波の音がここまで
聞こえてきた。さっそく夕食前の風呂へ行くと、浴室には硫黄臭が充満、浴槽の湯は白く濁り、床には
レモンイエローの硫黄成分が固着している。「源泉のままです。水を入れすぎないようご協力を」と
貼り紙があり、「熱い湯の入り方」というレクチャーまで貼ってある。加水なしの源泉掛け流しにまず感激。
そして掛け湯してみるとこれがやっぱり熱い!ビシッと熱い。そろりと湯に身を沈めると、じーんとくる。
泉質は含石膏-食塩硫化水素泉で、なめると酸っぱいレモン味。温度、臭い、酸度、どれもすばらしい
入浴感だ。この湯を文学者は何と表現したのか。ここで井上靖「海峡」の一節を引用してみよう。
「ああ、湯が滲みて来る。本州の北の果ての海っぱたで、雪の降り積もる温泉旅館の浴槽に沈んで、
俺はいま硫黄の匂いを嗅いでいる」。今は雪は降ってないけど、この湯はまさにそんな感じ。
だから俺もつぶやいてみたね「ああ、湯が滲みて来る。」


部屋の窓から見る海      浴室

夕食は海の幸三昧。やっぱり海辺の宿の醍醐味はこれやなー。刺身がうまい。茹でカニ、焼きサケもうまい。
ウニがまたうまい。アワビも登場。ええなー。そういえば下風呂温泉といえばこの時期、イカ釣り船の漁火が
風物詩。が、窓を開けてみても何も見えない。夕方から降り出した雨で漁が中止になったのかなと思って
聞いてみると、今日は月2回しかない漁が休みの日。漁のある日は部屋からも風呂からも漁火がきれいに
えるという。月2回って15分の1の確立やんか。なんかついてないなー。またお膳の前に戻りひたすら食べる。
この食事には大満足だ。ビールがガンガンすすむ。そこでまた言ってみた。「ああ、ビールが胃に滲みてくる。」


夕食             味噌鍋

翌朝の朝食は7時からとやや早め。イカ刺が新鮮。昨日はイカ漁が休みだというからきっとさっきまで
イカ備蓄センターで泳いでいたやつに違いない。そして下北名物のイカ寿司。寿司と言ってもイカのお腹に
入っているのは飯ではなくキャベツやニンジンといった野菜の酢漬け。これがさっぱりしていてなかなかいける。
ここでまた言ってみた「ああ、イカ寿司が舌に滲みてくる」もうええ!


朝食             イカ寿司

朝飯を済ませると、もうひとつの共同浴場・新湯へ。ここも大湯といっしょでヒバの床に水色ペンキの湯船。
浴槽はひとつだけで、無色透明の熱い湯が掛け流し。この湯も硫黄臭で酸っぱい味、肌が溶けているような
ぬめり感があり、火傷寸前くらいに熱い。バッと湯からあがり、ヒバの床でゴロゴロ。気持ちいー。
新湯から戻ると宿をチェックアウト。再び車を北へ向かわせた。


下風呂温泉新湯

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