男の旅は一人旅 信越編 2
渋温泉を後にして、いったん長野市に戻り、今度は車で一気に北上、道の脇に残された雪がだんだん
増えてきた。このまま新潟県まで突入する勢いだったが途中で飯食って風呂入りたいという衝動に
かられたところへ「中条温泉トマトの国」の看板。トマトの国?!よくわからんがとにかく行ってみる
ことにした。主要道から反れ、ぐいーんとくねくね道を登っていくと、雪に埋まるようにしてオレンジや
ピンクで塗られた建物が現れた。トマトの国というのはどうやらこの建物のことらしい。
浴室、食堂のほかに大きなロビーや会議室があり、どうやら研修施設のようだ。とりあえず食堂に
行ってみるが誰もいない。大丈夫かよと思っていると受付にいた女性が現れた。トマトの国っていう
くらいだからトマトが名物なんだろう。それらしいものを食おうかとメニューを見ると、オイオイ、
トマトを使った料理ゼロかよ!トマトジュースしかない。とりあえず一番安かったラーメンを頼み、
トマトジュースを飲みながら待った。ラーメンはどうでもいい味だったけど、ジュースはうまかった。
食後に温泉につかろうと浴室に入ると、タイルの浴槽が一つ。黄色透明の湯が満たされており、熱めに
沸かされているようだ。薄いモール系の鉱物臭、肌触りもつるり感があり悪くない。それはいいんだけど、
それにしてもなんなんだよ、この施設名は。

中条温泉トマトの国、外観と浴室
一風呂浴びたところでさらに北上を続けて新潟に入り、松之山温泉へ。「松之山温泉に行ってきたぜ!」と
いっても「どこだよ、それ」って人が大半だと思うが、松之山は草津、有馬と並ぶ日本三薬湯のひとつ
であり、温泉巡礼者なら避けては通れない要チェックの湯なのである。
まずは日帰り施設「松之山温泉センター鷹の湯」へ。浴室に入るとむわっと充満していたアブラ臭が
鼻に先制パンチを食らわす。泉質は含ホウ酸-ナトリウム-塩化物泉。大きな浴槽にうっすら黄色っぽい
笹にごりの湯が満たされ、口に含むと強い苦味と塩味。湯口からは85℃の源泉が豪快に注がれており、
ガツンと熱い。温まったところで露天風呂へ。石を組んだ湯船に満たされた湯は内湯より入りやすい温度で、
周囲の雪を見ながらのんびりとつかれた。強いアブラ臭も内湯より濃い感じで、肌触りはぎしぎしする。
よく見ると湯の表面に明らかにアブラが浮いとる!おそらく内湯は源泉を投入しながらの循環、露天は
源泉掛け流しなのではないかと思う。それにしてもよほど成分が強いのだろう、俺としたことが疲れてきた。
あがった後もポカポカ感が持続し、食塩泉独特のべとつき感もある。さすが日本三薬湯。侮ってはならない。
松之山エリアの中でも少し離れた兎口温泉露天風呂「翠の湯」に行ってみるとなんと冬季休業。まじかよ。
このままでは気がおさまらないので、松之山温泉街に戻りぶらぶらしていると、「湯治用意可」と書かれた
小さなぱっとしない宿「みよしや」を発見。泉質が期待できそうな予感がしてここで湯をもらうことにした。
浴室は中と小の2つで男女の区別は無い。小さな宿なので家族風呂的に利用するのだろう。小浴場に
入ってみると、浴室に強いアブラ臭が充満。小さな湯船にうっすら白濁した湯が張られ、激熱の源泉が
ちょろちょろと掛け流しになっており、とても熱い。苦くて塩辛い味も濃い。つかっていると、
たちのぼるアブラ臭がたまらない。強いアブラ臭とじんじんと熱い湯の相乗効果でかなりの入浴感だ。
さっきの鷹の湯よりずいぶん湯が濃い気がして、帰り際に源泉は鷹の湯と同じかと聞いてみると、
そうだよ、という返事。だが、「鷹の湯は湯船が大きくて循環してるけど、うちは小さいから完全に
源泉掛け流しだよ。」やはり小さくて地味な湯治の宿は泉質的に当たりが多いようだ。

鷹の湯露天風呂 みよしや小浴場
松之山の駐車場に戻り、トイレでションベンをする。このトイレ、どう見ても建築家のデザイン臭い。
あとで調べたら、越後妻有トリエンナーレでつくられた作品らしい。やっぱりなー。でも誰の作品
なのかは結局よくわからん。木とガラスの組み合わせできれいに構成されているが、あまり寒冷地という
地勢を考慮しなかったようで、まわりに木の雪囲いがついてた。でも夏はきれいなんだろうからまあいっか。

松之山公衆トイレ外観 内観
松之山からまた長野県へ引き返し、栄村の秘境・秋山郷へ。平家落人伝説も残るとんでもない山奥で、
幅員のせまい曲がりくねった道が延々と続く。しかも崖側のガードレール、ぜんぶ壊れとる!
坂の上から融雪用の水が川のように大量に流れてくる!ここ数日の晴天で山の雪が融け出し、
プチ土砂崩れが起こっとる!「落石注意」の看板はあるが、どう気つけろ言うねん!えらいとこに
来たなあと思って焦っていた気持ちもしまいにあきれてきたころに、小赤沢温泉「楽養館」に到着した。

ないに等しいガードレール 道路は融雪水で洪水状態
楽養館は急勾配の屋根が印象的な木造の日帰り入浴施設。浴室は天井が高く、丸太の小屋組みが
ダイナミックで山の湯治場って雰囲気。でももっと驚かされるのはその湯である。色は目も覚めるような
鮮やかなオレンジ色で、カルシウム成分が凝固して湯の表面に白っぽい膜をつくっている。床は赤茶色に
変色、浴槽も析出成分でコテコテ。つかってみるとぬるめの気持ちいい湯。なめてみると鉄味に加え
強烈な塩味。湯はパイプからゴボゴボッと間欠泉のように一定のインターバルで湯船に噴出しており、
その瞬間シュワーッと炭酸がはじけとぶ。湯口周辺に陣取って臭いは金気臭かな、なんて思っていると、
突然、湯口から漂ってきたおそろしいほどの炭酸臭で息ができなくなった。窒息寸前のすさまじい
炭酸含有だ。この強烈濃厚湯を堪能しまくれるぬるい温度がまたいい!湯からあがるとおばちゃんが
お茶をすすめてくれた。うーん、なんていい施設なんだ。

楽養館浴室天井 オレンジ色の湯

炭酸はじける湯口 浴槽もコテコテ
そろそろ日も暮れかけてきた。今夜の宿・屋敷温泉「秀清館」へと急ぐことにした。宿の駐車場に
車を止め、宿へと歩いていく途中で「!」。メインアプローチの途中に岩で組まれた大きな池がある。
池にしてはやけに水がきれいだけど、こんなメイン動線のまっただなかに露天風呂があるわけないし・・・。
と思ったら岩の一部から硫黄臭ぷんぷんの熱い湯が注がれとる!これ露天風呂かよ!しかしこんなとこに
つくらんやろ、普通!しかも川の対岸は小学校やんか!少々焦りながらチェックイン。おばちゃんに
「あれ露天風呂なんですよね?」と聞いてみると、「そうだよ、日が暮れないうちに入ってきたら。」と
あっさりと返された。そう返されたら入ってくるしかないでしょ。もとより俺は衆人環視での入浴に
なんの恥じらいも覚えない。
着替えたばかりの浴衣を脱ぎ捨て、どぼんと露天風呂へ。思ったより熱め。この旅でやっと巡り合った
硫黄臭がたまらない。白い湯の花も浮遊している。湯は激熱のため加水されているが、硫黄臭は
しっかり残り、肌触りもなめらか。味はというと、タマゴのような硫黄味に苦味が加わる。
遠くに雪をかぶった山を眺めながら、のんびりと貸切状態で湯を楽しんだ。それにしても、なんとも
オープンな露天風呂だ。休日の白昼、この湯につかる人がいるんだろうか。

秀清館(手前が露天風呂) ご満悦
内湯に行ってみるとぷーんと硫黄と木の混じった香り。まさに湯治場のニオイだ。すのこ敷きの床が
気持ちいい浴室には大浴槽と寝湯浴槽があり、無色透明の激熱湯が満たされる。火傷しそうなくらいの
熱湯にビリッと身が引きしまる。そんな熱いならつからなきゃいいのに、芳しい硫黄臭の誘惑に負けて
またつかる。おかげで体真っ赤っ赤やんか。

寝湯浴槽 大浴槽
湯からあがりすかさず夕食。イワナ塩焼、馬刺、イノシシ鍋、意外なほどの豪華版だ。ビールが
ガンガンすすむ。と、おばちゃん、イワナの骨酒みたいなのを持ってきた。オイオイ、そんなん
頼んどらんぞ、と思っていると、「イワナのお吸い物です。」透明な汁のはられた椀の中には
丸々と太ったイワナが一匹。「骨まで食べれます。」頭からガブリと食うと、これがうまい。
この料理には大満足。ビール一本追加しちゃったじゃねえかよ。

イノシシ鍋 イワナ吸物
夜中にもう一度風呂に入りにいくと、なんとさっきは無色透明だった湯が緑色に変化しとる!
時間経過とともに色が変わるのだろう。なんだかお得な気分になってざぶりとつかる。
やっぱり濁り湯はええなー。硫黄臭もええなー。
翌朝、朝食を取り、もう一度風呂に入って硫黄臭を可能な限り体にしみ込ます。
おばちゃんに別れを告げ、秋山郷のさらに奥地へと出発した。

深夜、緑色の濁り湯に華麗なる変身を遂げた湯
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