男の旅は一人旅 信越編 3

屋敷温泉からもう少し山奥へ車をすすめ、和山温泉「仁成館」に到着。ここで飼われている焦茶と
黒の2匹の犬がじゃれついてきた。どっから来たの、というおばちゃんに名古屋です、と答えると
しえーと驚いてから700円の入浴料を500円にまけてくれた。きっと男前に弱いにちがいない。
ここには内湯もあるが、今回は露天風呂を堪能することに。石組みの湯船は温度差のある2槽に
分けられており、無色透明の湯が掛け流しになっている。ざぶんと湯につかると「おおー!」
冠雪した鳥甲山が間近にせまる雄大な絶景。すばらしいロケーションだ。ぬるい湯に移動するとこれが
いつまでもつかっていられるような絶妙の湯加減。この景色とあいまって最高に気持ちいい。泉質的には
個性が強いわけではないが、湯につかりながらこの風景を見に来るだけの価値は十分あると思う。
湯上りにおばちゃんがお茶とお菓子をくれた。なんとも人柄のいい人だ。とそこへ宿のおっちゃんが現れ、
「今の若い奴は年金なんてもらえると思ってねえだろうなあ」って調子で資本主義社会のひずみについて
語りだした。相槌を打って聞いていた俺だが、ここしかない、というタイミングを逃さず
「じゃあ失礼します」と脱出に成功した。


仁成館露天風呂        絶景湯にご満悦

和山温泉からさらに奥へとすすむ。道端に1mほど積もった雪の上に野生の猿が出現。秘境やなー、ホントに。
道の両脇につもる雪はしだいに高くなり、しまいに軽く3mくらいになった。すごいとこやなー、まじで。
そんなこんなで10分くらいでめざす切明温泉に到着。切明温泉は、雑魚川の河原をスコップで掘って
湧いた源泉に川の水を引き込んでマイ露天風呂をつくるアウトドアスポットとして知られている。
「雄川閣」という宿泊施設でスコップを借りようと尋ねてみると、「掘らなくても湯船ができてるよ。」
教えられたとおりに河原の露天風呂をめざすが、その途中にある吊橋は雪のため通行禁止。無視して
渡ると今度は河原へ下りる道はすべて雪で埋まっている。強引に雪の上を歩いて河原に下り立つと、
いくつかの露天風呂を発見!河原と川との境目くらいにこじんまりと湯船がつくられ、どっから川やねん
みたいな状態になっている。透明な湯が満ちた天然の湯船の底からは、気泡とともにポコポコっと
源泉が湧いている。そこらへんの岩に服を脱ぎ捨て、どぼんとつかると、湯の表面は熱め、底のほうは
冷た目になっている。川との一体感が味わえる一方で、温度調節が難しい。フルチンで他の湯船に
移動する。よく見ると対岸の旅館から丸見え状態だけど、まあいっか。適温の湯船を見つけ、
のんびりつかる。夏ならともかくこんな季節だから他に入浴者はいない。対岸の旅館に背を向けると
周囲は山、川、雪。たまらんなあ、この開放感。


河原露天風呂         開放感にご満悦

切明温泉からあがって秋山郷を後にし、一気に町へと下り、ここからは長野側へ南下。途中で
JR横倉駅方面へ左折し、そのままずるずると橋を渡ったあたりの農協の裏に百合居温泉共同浴場がある。
仮設かと思うようなプレハブの湯小屋。中に入って料金箱に入浴料100円を投入。脱衣場に入ると、
おじいちゃんでけっこう混雑している。平日の正午に風呂入りに来るなんてみんなヒマ人かよ、と思ったが
よく考えると俺は全然そんなことを言える立場にないことに気づいた。浴槽にはパイプから無色透明の
湯が掛け流されており、熱くもぬるくもない気持ちのいい温度。ほんのりとやさしく香るアブラ臭が
たまらなくいい!なめてみると薄い苦味と塩味が感じられる。そしてしばらくすると、体に小さな気泡が
びっしりついている。新鮮な源泉を100%掛け流している証だ。いいなあ、ここは。最高に気持ちいい。


百合居温泉外観と浴室

さらに南下を続けると、国道脇になんとも気合の入ったうどんや「一心」が見えたので昼食をとる。
冷しきのこうどんは、まあぼちぼちのコシがあり、きのこの香りがいい。舌にピリリとくる甘酸っぱい
緑の果実が入っており、きいてみるとサルナシという山の果物だという。腹もふくれたところで、
北信の一大温泉地・野沢温泉へ向かう。野沢には「湯仲間」と呼ばれる村人たちの組織によって
管理されている13の共同浴場があり、すべて無料で開放されている。俺は以前11の湯に入って
いたので、残りの2つに入っていくことにした。


国道脇にぽつんと建ってるうどんや「一心」

まずは温泉街の中ほどにある「松葉の湯」。味のある木造の湯小屋の1階が洗濯場、2階が浴室と
なっており、うれしい正統派の硫黄臭が漂っている。黄色透明の湯はとても熱いが、先客の加水か、
浴槽内は入りやすい温度になっていた。口に含むとこれまた正統派の硫黄味。そして綿のような湯の花が
大量に舞っている。だんだんなんとも入り心地のいい熱めの湯になってきた。久々に訪れた野沢だが、
こんな湯にタダで入れるなんてやっぱりいいなー。
もうひとつは温泉街から少しはずれた「中尾の湯」。野沢の共同湯にしてはかなり大きくて、浴室の中央に
木で縁取られた浴槽があり、4対6に2分されている。大きなほうはけっこう熱めの湯、小さなほうは
源泉が惜しげもなく注がれるとんでもない激熱になっている。足の先さえつけることができない。
地元の人はこんな熱湯につかるのだろうか。俺はとりあえず適温のほうにつかったが、それでも熱め。
無色透明な湯は焦げたような硫黄臭。がっちり体が温まった。


松葉の湯


中尾の湯

露天風呂からの景色がいいと評判の馬曲温泉「望郷の湯」へ行ってみた。簡素な脱衣小屋で服を脱いで
外へ出ると、なるほど、高台から下界を見下ろす絶景が広がっている。さっそく岩風呂につかってみると
これがなんと塩素消毒臭。無色透明、はだざわりもつるりとするアルカリ単純泉だが、塩素臭が痛い。
すぐにあがってしまった。この湯を締めくくりの湯に考えていた俺だが、これではこの旅を終われない。
一気に長野市へ戻り、松代温泉へ向かった。


たしかに眺めはよかったんだけど・・・

国民宿舎松代荘は、きれいにリニューアルされた宿。浴室に入ってみるとどでかい浴槽にオレンジ色の
湯がなみなみと満たされ、浴槽は析出成分でゴテゴテにコーティングされている。
含鉄-ナトリウム-塩化物泉の湯は金気臭で、強烈な塩味と苦味。おそろしいほどの強烈個性湯だ。
こんなきれいな施設にこんな自己主張の強い湯がこんな放任主義で掛け流されているとは、
世の中なかなか侮れない。


施設と湯のギャップが激しい松代荘

もう時間がなくなってきた。松代温泉の近くにある加賀井温泉「一陽館」をこの旅最後の湯に選んだ。
かつては温泉宿だった一陽館だが、現在は日帰り入浴専用の施設になっている。屋根に湯気抜きのついた
いい味が出ちゃってる湯小屋。とにかくまあかなり鄙びていることは間違いない。おっちゃんに入浴料
300円を払うと、「あんたはここ初めてかね?」そうだと答えると「じゃちょっとついておいで。」
どこへ連れて行かれるのかと焦っていると、案内されたのは源泉。湯溜めの上の板をはずすとそこには
炭酸を含む源泉がシュワーッと乱舞しており、薄茶色の源泉に真っ白な泡がたっている。もっと顔を
近づけてみろというのでやってみると「!」ガツンと鼻を刺す強烈な炭酸臭で窒息しそうになった。
すると次は手をいれてみろ、という。ほんのりと温かい。「41℃で400リットルの湧出があるから
源泉100%の掛け流しが可能となるんだよ」おっちゃんの化学的、地質学的な温泉レクチャーが
始まった。かなり専門的な内容だ。呆然と聞いているうちにやっと入浴が許された。
かなり温泉を愛しとるなあ、このおっちゃん。見習いたいものだ。


一陽館外観          窒息寸前になる炭酸を放つ源泉

浴舎に入ると、中の鄙び方もかなりきている。脱衣場と浴室が一体型となっており、薄茶色の湯が
大きな湯船に満たされていた。つかってみると炭酸臭と金気臭、ぬるめの温度が気持ちいい。
ふと風呂桶をみると、あの「ケロリン」の黄色い桶が、茶褐色の析出成分でゴッテゴテになっている。
こんなかわいそうな風呂桶は初めて見た!とんでもない濃厚湯であることがこれを見てもわかる。
露天風呂もあり、そこへはメインアクセスを裸で横切っていかねばならない。成分がガッチリ付着した
湯船は2つに仕切られ、オレンジ色の湯が掛け流しになっている。温度はぬるめとさらにぬるめの2種類で、
これがとてつもなく気持ちいい。1時間でも2時間でもつかれるのではないだろうか。掛け流しの濃厚な
ぬる湯がめちゃめちゃ気持ちいい。旅のラストをこんな湯で飾れるとは最高のエンディングだ。


浴室             露天風呂

長野駅から特急しなのに乗り、駅弁を食いながら名古屋へ帰還。外湯が並ぶ一大温泉郷から
自然と一体となれる露天風呂地帯である秘境への旅だったが、やっぱり信州は奥が深かった。深い、
深すぎる!というわけでまだまだ俺は長野を訪れる気満々なのである。おわり。

男の旅は一人旅へ