男の旅は一人旅 白神山地編 2

黄金崎不老ふ死温泉は、海辺にある露天風呂が全国的に有名な宿。特に日本海に沈む夕陽を
見ながら入れる夕方の時間帯は宿泊客、日帰り入浴客でイモ洗い状態になるという。そんな
混雑を避け、今回は朝一番で訪れることにしたのだ。浴室棟で日帰り入浴を受け付けて
もらうと、受付済みの証明となるオレンジ色の紙テープを手首に巻いてくれた。
露天風呂は建物から離れた海辺にあり、混浴と女性用に分かれている。その湯船を見ると
思わず「おお!」と感嘆の声が漏れる。真っ青な空と海をバックに、ひょうたん型の湯船に
オレンジ色の湯が満たされており、そのブルーとオレンジのコントラストが鮮烈。
泉質はナトリウム-塩化物泉、弱い金気臭で強い塩味と苦味、適温で掛け流され、湯船は
赤茶けた成分がこびりついている。潮風に当たりながら首までつかり、海を眺めていると
いつまでも飽きることなくつかっていられそうな感じ。夕陽の露天風呂もすばらしいん
だろうけど、青い海を見ながらの入浴も開放感満点でとても気持ちよかった。


絶景の露天風呂        ご満悦!

本日の第一湯が上々のスタート、気分良く不老ふ死温泉を出発し、国道101号線を南下する。
右手に海を見ながらの爽快な絶景ドライブ、ところどころでイカを天日干ししている風景も
見ることができ、運転中ずっとイカの一夜干を食べたい衝動に駆られ続ける。冷房を止め、
窓を全開にして走っていると、青森県から秋田県に入ったあたりからかなり気温が上がって
きた。青森の夏ってこんなに暑いの?!とにかく一風呂浴びたい気分になり、温泉を探し
ながら運転していると、「あきた白神温泉」という看板を発見。予定にはなかったが急遽
立ち寄ることにした。


海を見ながらの絶景ドライブ  道端でイカを干す風景も

あきた白神温泉ホテルの立ち寄り入浴は10時から。5分ほど早く着いてしまったが、もう
掃除が終わっているということですぐに入ることができた。無色透明無味無臭のアルカリ性
単純温泉を加熱循環。まあ今回は事前のリサーチもなしに汗を流したい一心で飛び込んだから
仕方ない。循環とはいえ、つるりとする感触の湯でさっぱりすることができた。


あきた白神温泉外観      浴室

さて、今日は秋田側からのルートで白神山地を目指す。藤里町にある世界遺産センターの
横を通り過ぎ、どんどん山奥へ入っていく。途中から未舗装のボコボコ砂利道が延々と続き、
かなり疲れてきたところで岳岱自然観察教育林に到着した。
この教育林は広さ約12万m2、木道が設けられており歩きやすく、ある程度のところまでは
車椅子でも行けるバリアフリーな道が整備されていて、少し歩くと「400年ブナ」に到着。
ブナの樹齢は通常300年程度とされているが、これはそれをはるかに越える樹齢400年と
言われている白神山地秋田側のシンボル的存在。太い根元部分は苔に覆われ、長い年月と
風雪に耐えてきた様子がうかがえる。さらに進むとモリアオガエルの池という水たまりの
ような小さい池があり、木漏れ日で少し明るくなった水面にオタマジャクシの姿を見る
ことができた。帰り道、ブナの幹に耳を付けてみる。運がいいとブナが水を吸い上げる音が
聞こえる、というのだが、今回は残念ながら聞こえなかった。森の中にはツキノワグマの
爪痕の残るブナもあり、自分がいま大自然の真っ只中にいることを改めて感じされられた。
ブナの大木が聳える原生林を歩いていると、とにかく濃密な森の空気を感じることができ、
とても気持ちのいい体験だった。


ブナの原生林へ        貫禄の400年ブナ


400年ブナの根っこ      モリアオガエルの池


画面中央にオタマジャクシ   ブナの幹にクマの爪痕が!

ブナの森を充分に満喫し、通ってきた悪路を引き返し、秋田県北東部の中心地・大館方面へ。
JR大館駅を目指してひたすら走る。大館駅に着いてみると、駅の正面に忠犬ハチ公の銅像が。
ハチ公像といえば渋谷駅が有名だが、秋田犬であるハチ公は実は大館市の出身で、その地元
にも銅像が立てられているというわけ。が、この大館駅にはハチ公を見るために立ち寄った
のではない。昼食を調達するためである。大館駅には超有名駅弁「鶏めし」がある。秋田で
鶏といえば高級ブランド・比内地鶏、「鶏めし」駅弁にももちろん比内地鶏がしっかりと
使われている。さっそく駅の売店で赤い掛け紙に包まれた鶏めし(850円)を購入。
あきたこまちを比内地鶏のスープでじっくりと炊き上げた鶏めしの上に、甘辛く炊いた
鶏肉が乗り、色鮮やかな練り物系のおかずが脇を固める。たっぷり鶏ガラスープを吸い
込んだ風味豊かな鶏めしは香りが良く奥深い味わい、鶏肉は歯ごたえあるしっかりした
肉質で鶏の脂が甘い。3種類あるハンペンはどれもうまく、鶏めしに飽きさせない絶妙な
アクセントになっている。大館の鶏めしは、ものすごく美味しいうえに、この味この内容で
この値段。これまで食べてきた日本全国の駅弁の中でも総合評価でベスト3に入れたい
超優良駅弁。ぜひ一度食していただきたい一品です。いやーホントにうまい。


JR大館駅          大館にもある忠犬ハチ公像


大館といえば駅弁「鶏めし」  うまいの一言!

大館市内にはたくさん温泉が湧いており、共同浴場も数多くあるが、その中の一つ花岡温泉に
入っていくことにした。大館の郊外にある平屋建ての小さな建物で、浴室に入るとライオンの
顔型湯口からタイル湯船に湯が掛け流し。無色透明の湯はやや石膏臭があり、やわらかな
肌触り。温度も熱すぎず適温で気持ちいい。さっぱりと湯から上がるとすぐに車に駆け込んで
クーラーを全開し、お茶をがぶ飲み。なんせ夏場の温泉巡りは水分補給が不可欠。
今日もとにかく暑い。


花岡温泉外観         浴室

国道7号線を北上し、青森との県境近くにある日景温泉を目指す。日景温泉は、国道から左に
それ、しばらく細い道を進んだところに建つ一軒宿の秘湯。日本秘湯を守る会会員旅館で、
木造の渋い佇まい、玄関には大きな提灯がぶらさがっていた。浴室には思ったよりたくさんの
入浴客がおり、大きな湯船と小さな寝湯がひとつずつ。床も天井も木でできた渋い風情で、
湯船には白い濁り湯がたっぷりと溢れており、丸太の湯口からドボドボと源泉が掛け流しに
されている。硫黄で黄色くなった湯口から注がれる湯は硫黄臭で、苦くてまずい硫黄味に
加えて意外なほど強い塩味を感じ、この夏場には長くつかっていられないほど熱め。でも
ジリジリするような熱い温度とすばらしい硫黄臭が体全体に訴えかけてくるものがあり、
得も言われぬ入浴感がある。屋外には混浴の露天風呂もあり、岩風呂に内湯と同じ白い湯が
掛け流されている。内湯より温度はややぬるめ、気持ちよくつかっていると、「ぶ〜ん」と
でかいアブが飛んできた。夏の東北の露天風呂においてアブの存在は不可避。アブを手で
払いのけながらの入浴になったが、翌日、アブの本当の怖ろしさを思い知らされることに
なろうとはまだこのとき知る由もなかった。


日景温泉浴室         混浴の露天風呂

日景温泉のすぐ近くには、矢立温泉が湧いている。矢立温泉の一軒宿「赤湯」という旅館は、
最近「アクトバード」という名前に改名したらしいが意味はよくわからない。アクトバードに
行ってみると、その名前とは釣り合わないかなりくたびれた建物。おじちゃんに入浴料の
300円を払おうとして小銭が215円しかなかったので、1万円札を差し出すと「釣り銭ないよ。
300円のとこに1万円持ってこられても困るよ、そういうお客さん多いんだよホントに。」と
少々イラついている様子。そんなバスの運転手みたいなこと言われたってこっちも困る。商売
やってる以上、9700円のお釣が用意できないことのほうが問題でしょ、と言いたかったが、
とにかく温泉に入ることが第一目的。名古屋から来たのでお願いしますよ、と頼み込み、
なんとか215円にまけてもらった。浴室に入ってみると、四角い湯船に赤茶色の湯が満たされて
いたが、それより何より驚かされるのがその床!温泉の土類成分が百枚皿のように波打って
凝固しており、とにかくすごいことになっている。床の成分がすごすぎてそのままでは歩き
にくいので、歩行用の板が渡してあるほどである。ぬるい源泉を沸かしているようで、
蛇口から出てくる冷たい源泉をなめると意外にも鉄っぽさはなく塩味と苦味を感じる。
それにしてもここは析出成分がすごすぎる。床が得体の知れない生き物のウロコのようで、
小さい子供なんか気味悪くて泣き出すのではないだろうか。


矢立温泉浴室         温泉成分で床はめちゃくちゃに

そろそろ日が傾いてきた。矢立温泉から国道7号線を北上して青森県に入り、いよいよ今日の
最終目的地、湯の沢温泉に向かう。湯の沢温泉は小さな川に沿って湯治場の雰囲気を色濃く
残す3軒の宿があり、今日はそのひとつ「なりや温泉」に宿泊する。宿に到着し、部屋に
案内されてみると、4畳間に小型テレビとちゃぶ台というこじんまりとした部屋で、西日が
差し込んでとにかく暑い。えーっとクーラーのスイッチは…、と探してみるが、なんと部屋に
クーラーがない!仕方ないのでカーテンを閉めようとしたが、そのカーテンもない!さすがに
暑すぎるので宿のおじちゃんに相談してみると、わざわざスダレを持ってきて窓に掛けてくれた。
とにかく暑いがここは青森の山の中、「ここらへんは日が沈んだら涼しくなるんですよね?」
「いやー、ここんとこ暑くて、涼しくなるのは夜中ですねぇ」「・・・。」何とかなりませんかと
頼んでみると扇風機を持ってきてくれ、これでなんとか快適にすごすことができた。宿の中を
ウロウロしてみると、長逗留の客が自炊をするコーナーなどがあり、いかにも湯治宿って感じ。
西日のせいなのか、館内のどこよりも俺の部屋が暑いような気がした…。


なりや温泉外観        湯治宿らしい自炊コーナー

部屋にいても暑いので、さっそく風呂に入ることにした。このなりや温泉には2つの浴場が
あり、まずは第一浴場へ。第一浴場はかつては混浴だったらしいが、いまは男女別になって
いる。建て付けの悪い戸を開けて浴室に入った瞬間鼻を突く硫黄臭。タイルの湯船に黄緑色の
透明な弱食塩泉がたっぷりと溢れており、湯の表面には細かい温泉成分が白っぽく固まって
浮いている。ざばっと掛け湯するとかなり熱い。ざぶんとつかると心地よい硫黄臭、なめると
以外にも硫黄よりも塩味が強く、ビシッとしびれる入浴感。熱くなってそのまま床に寝転がる。
こうしてるほうが部屋にいるよりよっぽど涼しくて気持ちいい。


男女別の第一浴場

第一浴場から出て部屋に戻り、扇風機にあたりながらテレビをつけてみた。衛星第一と第二しか
映らん!しかもかなり画質が悪い。ちなみに携帯電話はもちろん圏外。少し体が冷めたので、
夕食前に第二浴場に行ってみた。第二浴場は混浴。浴室に入ると強烈な硫黄臭が充満!小判型の
湯船に湯がパイプからドボドボと掛け流しになっており、溢れた湯がドンドン流れ去っていく
床には灰白色の硫黄成分が固まっている。食塩硫化水素泉の湯は黄緑色がかった白濁、強い
硫黄臭で、味は硫黄の苦味としっかりした塩味を感じる。20回くらい掛け湯してみたが、なんせ
温度が熱く、やむを得ず断腸の思いで最小限の水を入れ、そろりとつかってみるがそれでも熱い。
が、とろみのあるような浴感でとにかくつかり心地がいい。強い硫黄の香りもすばらしい
ものがあり、お湯の良さが全身からビシビシ伝わってくる。お湯がどんどん体を攻めたてて
くる感じ。間違いなくこれまで入ってきた硫黄泉のなかでも最上級の部類に入るもので、
体が真っ赤になっても更につかりたくなるこのすばらしいお湯を、湯当たり寸前まで堪能した。


混浴の第二浴場

夕食は部屋に運ばれてきた。ぜんぜん期待していなかったが、鍋や刺身、豚の角煮など、おいしく
いただくことができた。ビールもどんどんすすむ。なんせ夏場の温泉巡りは水分補給が不可欠…。
夕食後の散歩がてら、お隣の「でわの湯湯の沢山荘」まで歩いて立ち寄り入浴をお願いすると、
俺の浴衣を見て「なりやさんから来たの?」と一目で見破った宿のおじちゃんが、
「なりやとはまたちょっと違う源泉だから楽しんでいってよ」と快く迎えてくれた。
薄暗い浴室に入ると、床も湯船も温泉の土類成分でゴテゴテ。元々の木の床の上にウロコように
成分が隆起して、もうこの床何でできてるの、っていうくらメチャメチャなことになっている。
泉質は土類石膏食塩泉、お湯の色は暗いので暗緑色に見え、塩味と苦味が強く、なりやに比べて
硫黄よりも食塩がかなり勝っている印象。この湯もかなり熱めで長いことつかってはいられないが、
ビシーッと温まったらゴテゴテの床の上に寝転んで涼んでみる、を繰り返し、かなり長い間
湯浴みを楽しんでいた。
宿に戻り、寝る前に第二浴場で本日最後の入湯。お湯の注ぐ音だけが支配する静寂の中、
このお湯を独占できる幸せをかみ締めると、早めに眠りに就いた。なんせ明日は早朝から
かなり飛ばしていく予定なのである。


でわの湯湯の沢山荘浴室    木の床を侵略しつつある温泉成分

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