男の旅は一人旅 宮城山形編 4

山形県の標高を茶碗の断面に例えると、一方の縁が新庄市、もう一方の縁が米沢市、
底にあたるのが山形市である。つまり、中央の山形市から南北に遠ざかるほど
標高が上がり降雪量は多くなる。山形から米沢へと向かう車中で、
雪が深くなっていくのをはっきりと感じた。米沢市というと上杉鷹山の城下町、
東北の南の玄関というわけで勝手にでかい町をイメージしていたのだが、
米沢駅のあまりのあっさり感には拍子抜けした。でもまあ地方都市なんてこんなもんだろ。
蔵王の強烈な酸性の湯につかった後は、仕上げの湯として重曹系か食塩系の湯に
つかりたいと思った。俺がセレクトしたのは小野小町ゆかりの湯・小野川温泉である。
米沢からタクシーに乗り、小野川温泉へと向かう。「お兄さん、小野川温泉で新年会?」
「んなわけないやん!」こんな会話でスタートした車中、タクシーの運ちゃんの
温泉ウンチクを最大限に引き出した。小野川温泉は米沢十湯のひとつで、
小野小町が父親を探す旅の途中で病に倒れた際、薬師如来のお告げで発見したという
伝説があるらしい。市街から車で20分というアクセス至便な米沢の奥座敷的立地だが、
歓楽的な要素が何もなく湯治向けの温泉だったようだ。今は町の旅館が協力して
もっと人を惹きつけようと湯巡り手形をつくったり、蛍の季節は川沿いに
無料露天風呂をつくったりと努力しているという。米沢時代の伊達政宗が
落馬の傷を癒したという共同浴場・尼湯の湯はとても熱いので、
タイルの床に寝そべってごろごろするのがおすすめだと教えてくれた。

その尼湯前でタクシーを降りる。唐破風のついたこじんまりした共同湯で、
200円の入浴券はとなりの商店で買い求める。尼湯前に源泉100%の飲泉所があった。
湯は含硫黄ナトリウム−カルシウム−塩化物泉。飲んでみると硫黄味+塩味で
ちょっとしたスープのようにかなりうまく、何杯も飲んでしまった。浴舎の中に入ると
誰もいない。珍しく脱衣場と浴室の間に壁がない。この浴室・脱衣室ワンルーム構成は
別府や野沢でよく見かけるが、風呂に入っていながら自分の荷物に目が届くから防犯上安心だ。
特に俺のようにこんなところで全財産盗まれたらおしまいという旅行者にはありがたい。
白いタイルの清潔な浴室で、湯口が2つある。そのうちの一つからは82℃の源泉、
もう一つからは水が浴槽に注がれている。この時点で加水していることがわかってしまった。
源泉100%でないのは残念だが、俺の中では温度を下げるためやむを得ず加水する場合でも、
源泉蛇口や源泉湯口がある場合は源泉掛け流し同等の評価をしている。
それにここは掛け流される量も豊富で新鮮な湯が気持ちいい。水で割っているものの
湯はかなり熱い。じーんと熱い。浴槽の中で動かないようにじーっとつかったが
びりびり熱い。高温に加え食塩系だけあってよく温まった。

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尼湯外観           浴室

さて、尼湯から少し離れたところにもうひとつの共同湯・滝の湯がある。
コンクリート造のひなびた浴舎で、となりにはラジウム卵専用の湯船があり、
卵がつけてあった。向かいの岩瀬商店で200円の入浴券を購入して中に入る。
尼湯より一回り小さいタイルの浴室だ。湯は女湯の壁を突き破って流れてくる。
湯口→女湯→男湯というふうに湯が流れているのかもしれない。湯は尼湯より熱い気がした。
きりっと気が引き締まる湯だ。尼湯と滝の湯、俺はどっちかというと
雰囲気のいい尼湯のほうが気に入った。湯上りの肌は、食塩系なのに
しっとりした感じでなく、かさつきを感じるくらいすべすべつるつるになっていた。

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滝の湯外観          ラジウム卵用浴槽

温泉街をぶらつくと、冬の平日ということもあってなんだか寂しい感じだ。
でも各旅館が自分とこの風呂の名を染め抜いた赤と紺の大きな布をかかげ、
楽しい雰囲気づくりをしている努力が感じられる。こういう温泉街にはがんばってもらいたい。
泉質はいいし、雰囲気のいい共同湯もある。小野小町伝説という
女性のよろこびそうな背景もあるし、夏のホタル、冬の雪と自然もある。
あとは各旅館がいかに魅力的な宿づくりをしていくかと、町としての売りが
もう一つ欲しいところだ。名物旅館が2つくらいできれば、脚光を浴びる要素は
十分ある温泉地だと思った。あとは名物のまんじゅうとラジウム卵。
何個かまとめた包みでしか売ってないので、ばら売りもしてくれたほうがうれしいんだけど。
まんじゅう一つ買って食べながらぶらぶらできる。湯巡り手形で町を
そぞろ歩いてほしいという温泉街にはそんな土産屋が絶対必要だ。
バスで米沢駅へ戻り、山形まで北上して快速で仙台まで帰るつもりだったが、
仙山線のダイヤが乱れているとの情報だ。冬の雪国の公共交通機関の時刻表は
まったく鵜呑みにできない。いい勉強になった。電車はあてにならないので、
仙台行き直通バスに乗ることにした。バスの通り道である米沢から福島にかけては
姥湯、滑川、大平といった吾妻山系の秘湯が点在している。これらの温泉は一軒宿で
冬季休業のところが多い。雪が融けたらぜひ訪れたいエリアである。

仙台に着くと地下鉄で勾当台公園まで行き、せんだいメディアテークを再訪した。
設計は建築家・伊東豊雄。構造体が単純な柱でなく、鋼管を組み合わせたメッシュ状の
チューブになっており、その内部は階段、エレベータといった動線や設備幹線に
なっているという、建築界に一大センセーションを巻き起こした名建築。
自転車置場もアルミ構造っぽくて、うーん、やるなあ、伊東センセー。

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せんだいメディアテーク外観  内観

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チューブ内部         自転車置場

仙台でぜひやってみたいことがあった。牛タン屋のはしごである。
頼むのは牛タン塩焼きと生ビール1杯のみ。倒れるまではしごしてみようというわけである。
結果を以下に示す。
べこ正宗 トロ牛タン塩焼き 付け合せはネギ細切 付出しはトロ牛タン握り寿司
き助 牛タン塩焼き 付け合せは白菜の漬物 付出しは湯豆腐の牛タンそぼろかけ
味太助 牛タン塩焼き 付け合せは白菜の漬物 付出しなし
佐利 牛タン塩焼き 付け合せは野沢菜・梅昆布 付出しは枝豆
福助 牛タン塩焼き 付け合せは白菜の漬物 付出しはじゅんさいとツブ貝の和え物
仙台の牛タンはそこらへんの焼肉屋のぺらぺらのやつとはわけが違い、
厚みがあるのにやわらかい。たっぷりの白菜の漬物といただくのが仙台流のようだ。
快調なペースでまわっていたが、5軒目でもうだめだと思った。このなかで
もう一度行きたいのは福助。厚くもなく薄くもない牛タンのミディアムレア感がよい。
別注のテールスープもうまかった。
さて、もう思い残すことはない。21時半発の夜行バスに乗り込んだ瞬間、
泥のように眠りに落ちた。結論。男の一人旅はやっぱり雪国に限る。
だが、南東北にはまだまだ数え切れない温泉が点在している。
やり残したことの多すぎる俺はまだまだ東北を訪れる気満々である。おわり。

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