男の旅は一人旅 山形編 1

このところ、とんと一人旅が少なくなってしまった俺。永遠の旅人として、このまま
2006年を迎えてしまうのはやっぱりちょっとまずいでしょ、というわけで、年も押し迫った
12月最終週、2005年最後の旅に出ることにした。この時期、世間はクリスマスの余韻を
引きずりながら新年へと移行する祝賀ムード満点の季節。だが俺の行き先には、そんな
お気楽なイベントとはまったく無縁な東北の湯治場がふさわしい。しかも、2年前の真冬に
訪れた宮城・山形に、なんだか無性にもう一度行ってみたくなった。

旅の始まりは中部国際空港。どーでもいいけど、この中部国際空港の英語名、「Chubu」で
充分だと思うんだけど、実際には「Central Japan International Airport」。
「日本中央空港」みたいな大袈裟な印象だなー。このセントラルとエアポートを合体させた
造語「セントレア」というのがこの空港の愛称になっていて、そういえばこの空港の南に
位置する美浜町と南知多町が合併して「南セントレア市」になるなんていう話もあったけど、
そのどうしょうもないネーミングセンスが全国的なバッシングを受けて合併自体が
なくなったなんていう話もあった。まあそんなことはどうでもいいんだけど、この
セントレアには、開港以来自宅から近いこともあり何度も遊びにきている訳だが、
実際にここから飛行機で旅立つのは今回が初めて。空港内に乗り入れている名鉄線の駅を
降りて国内線出発ロビーへ。搭乗手続きを済ませ、8時発の便に乗り込み、仙台空港へ。


旅の始まりはセントレア    JAL3171便仙台行

機内はガラガラ。年末の帰省ラッシュをうまいこと交わせたらしい。ぼーっと窓の外を見て
いると、あっという間に仙台空港に到着した。東北地方に記録的な大寒波が来ているというのに、
太平洋側である仙台は快晴、雪がまったく積もっておらずちょっと拍子抜け。到着してみると、
仙台空港は波のように大きくうねる屋根が特徴的で、なかなかおもしろい空港建築。バスを
待つ間、空港内をうろうろしていると、空腹に耐えられず思わず売店へと足が向かい、ずんだ餅を
選択した。ずんだ餅とはすりつぶした枝豆を餅に絡めた宮城名物。とろとろの餅に甘さ控えめの
ずんだが一体となったちょっと不思議な味だ。腹を満たしたところで、空港バスに乗り換えて
JR仙台駅へ。ここで駅弁をごっそり買い込んで、一ノ関行き普通に乗り込んだ。


仙台空港           ずんだ餅

小牛田駅で東北本線から陸羽東線に乗り換え。このあたりではさすがに雪が積もっており、
風に煽られてサラサラのパウダースノーがものすごい勢いで舞い上がっていて、かなり焦った。
まさに下から雪が吹き上がってくる感じで、こういうのを地吹雪と言うんだろう。雪と風の
影響で少し定刻を遅れながら、川渡温泉駅に到着。俺の目指す鳴子御殿湯駅まではあと一駅。
が、列車が発車する気配はなく、なんと、川渡温泉駅から先は、暴風のため運行を見合わせて
いるとのこと!こればかりは何とも仕方ないので、イライラ感の募る車内を出て、川渡温泉駅の
駅舎で昼食を取ることにした。仙台で買ってきた駅弁「伊達のはらこめし」。はらこめしは、
伊達政宗に地元の漁師が献上したのが始まりとされる宮城の郷土料理で、鮭のだし汁で炊いた
宮城米「ひとめぼれ」の上に、おおぶりな鮭の身とイクラが乗る。うまい。むしゃむしゃと
完食し、車内に戻ると、30分ほどして運行見合わせが解除された。それでも列車は徐行運転を
しながら、定刻より35分遅れて鳴子御殿湯駅に到着した。


強風で列車が立ち往生     伊達のはらこめし

鳴子御殿湯駅に降り立つのは2年ぶりだが、その駅舎がこぎれいに改築されているのにかなり
驚いた。2年前は東北のローカル線まるだしの貧相な駅だったというのに!とりあえず駅を出て
東鳴子温泉へと歩く。木造のしぶーい湯治宿、いさぜん旅館で立ち寄り入浴をお願いすることにした。
宿の前に立つと、軒という軒からツララが垂れ下がっており、このあたりの厳しい寒さを目の当たりに
した感じだ。玄関を入ると、そこらじゅうに散りばめられている阪神タイガースグッズに、はっきり
いってかなり焦った。きっとご主人が熱烈な阪神ファンなのだろう、しかも典型的な。
さて、このいさぜん旅館には、3種類の重曹泉の源泉を使った3つの浴室があり、まずは大浴場から。
大きなタイルの湯船に無色透明な湯が掛け流しになっている。冷たく冷え切った体に染み渡る熱い湯に
「あ”ーーーーっ」とオッサンまるだしの感嘆の声が漏れる。臭いや味はそれほど特徴的でないものの、
湯のやわらかな感触はさすが源泉掛け流し。気持いい!と、風呂桶をよく見ると黄色に黒の縞模様。
なんと温泉情緒も吹っ飛ぶタイガース風呂桶だ!間違いなくここのご主人、熱烈な阪神ファンなのだろう、
しかも典型的な。


いさぜん旅館         館内には阪神グッズ


大浴場            風呂桶もタイガース

残り2つの浴室は「鉄鉱泉」と「炭酸泉」と銘打たれているが、実質はひとつの浴室になっていて、
1.2m程の衝立状の目隠し壁を隔てて2つの湯船が背中合わせになっている。まずは浴室の向かって
右側にある鉄鉱泉へ。ヒョウタンを半分に切ったような形の湯船に黒っぽい暗褐色半透明な湯が掛け流し。
鉄鉱泉という名前だが鉄分は感じられず、石油臭で石油系の硫黄味。このいかにも東鳴子温泉らしい
石油臭がたまらなく良い!そして湯は非加水で掛け流され、ガツンと熱い!
しっかり温まったところで今度は「炭酸泉」へ。ほぼ正方形の小さな湯船に源泉掛け流し、湯船の縁から
じわりと湯が溢れている。つかってみるとかなりぬるめ。いつまででもつかっていられそうな俺好みの
温度で、しかも炭酸泉というだけあって、つかっていると体中に細かい気泡が付着している。湯は
暗褐色半透明で石油系の匂い。鉄鉱泉に比べて香りも肌触りもやわらか。ちなみにこの浴室は混浴に
なっている。この日もぬるい湯にじっくりつかっていると、ガチャンと戸が開いて女性が入って来た!
が、こんな所に若い女の子がいるわけない!入ってきたのは垂れたオッパイ丸出しのおばあちゃんだった。
しかもヨボヨボのじいちゃんも一緒に。おばあちゃんと話をしながらのんびりと長湯してしっかり
温まった。この普通な混浴の雰囲気が東北らしくていいなあ。


鉄鉱泉            炭酸泉

この東鳴子で3箇所くらい入浴を予定していたが、列車の延着といさぜん旅館の予想外に気持ちのいい
長湯で、すっかり時間がなくなってしまった。以前の僕なら2箇所の入湯を逃したことを悔しがっていた
だろうが、スケジュールを忘れる程のすばらしい湯との出会いに沸々と感動がこみ上げてきた。俺も
ずいぶん変わったなあと思う。
ピカピカの鳴子御殿湯駅で次の列車を待つ。黒っぽい木を多用した和風モダンなつくりで、天井が高く
畳コーナーもある。張り紙によると、東鳴子の住民の強い嘆願で今年ようやく改修が完成したのだという。
たしかに温泉地ならこれくらいの小洒落た駅が欲しいところだろう。が、東鳴子の温泉街が思いっきり
鄙びすぎていて、かなり駅が浮いた存在になってる!
7分遅れで到着した列車に乗ること約4分、一駅先の鳴子温泉駅で下車。駅を出た瞬間、ぷぅ〜んと
硫黄の香りが!駅に設置された足湯から漂ってきた匂いだった。そして雪積もりまくりの鳴子の町を
歩くと、そこらじゅうの側溝からも硫黄の香りが!なんてすばらしい街なんだ!


きれいになってた鳴子御殿湯駅 鳴子温泉駅足湯

鳴子温泉では、老舗の湯治宿・姥之湯旅館で立ち寄り入浴することにした。この宿はものすごい坂道の
下にあり、雪が踏み固められてコチコチに凍り付いたその坂道を降りていくのはかなり至難の業だった。
なんとか辿り着き、早速風呂へと突撃。この宿には4つの源泉を使った4つの風呂がある。まずは露天風呂に
行ってみると、なんと女性専用時間!誰も入っていないことを確認してちらりと見てみると、雪の中の
気持ちよさそうな露天風呂。ぜひ入りたかったなあ・・・。
そしてもうひとつ、宿泊者専用で日帰りでは入れない浴室もあった。これにもいつか入ってみたいなあ・・・。
気を取り直して「若亀の湯」という浴室へ。4分の1円形の湯船に無色透明な湯が溢れている。泉質は
単純温泉。岩の湯口から掛け流される湯は金気臭金気味、鉄分が入っているのか湯船は変色して赤茶けて
おり、湯口の辺りにも土類金気系の湯によくあるような、ポツポツトゲトゲの析出成分が付着している。
これが単純泉?!という感じの個性豊かな湯に感激。湯口から掛け流される湯は熱いが、湯船の湯は
ぬるめになっており、気持ちよくのんびりとつかることができた。


入れなかった露天風呂     若亀の湯

名残惜しくも「若亀の湯」を後にし、「こけしの湯」という硫黄泉の浴室へ。浴室に入った瞬間、俺を
恍惚状態にさせる硫黄臭が充満している。木の湯船に真っ白な湯が満ちており、掛け流される源泉は
硫黄臭で苦い硫黄味、木の床は硫黄成分の影響でペンキを塗ったように白くなっている。これぞまさに
東北の湯治場の雰囲気だ!湯に入るとレモンイエローの湯の花がモワモワッと舞い上がり、やがて俺の
体に降り積もった。適温の湯は肌触りもやわらか、じんわりと体が湯に包まれる。あー気持ちいい、
ただただ湯につかり続ける。来てよかったなあ、ホントに。湯からあがると、「全身硫黄臭になってる!」


こけしの湯          白く変色した木の床

湯からあがり、雪と氷でツルツルの路面と悪戦苦闘しながら駅へと辿り着くと、ギリギリ次の新庄行き
普通列車に間に合った。また一駅だけ乗って、中山平温泉駅で下車。どうしょうもない無人駅である。
この駅を基点にいくつかの旅館が分散しているのが中山平温泉。暗くなってきた雪道を20分ほど歩き、
ようやく到着した湯治宿・丸進別館で入浴をお願いした。別館ということだが、本館があるのかどうかは
かなり怪しい。建物の一番奥の大浴場は、床もサッシも妙に傾いていて、平衡感覚が狂ってる感じ。
空間としてはなんだか気持ち悪い。アメーバーのようにぐにゃぐにゃの形をしたタイル浴槽がひとつあり、
そこに透明な湯が掛け流しになっている。泉質は含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・硫酸塩泉。ほんわかと
硫黄の香りがする湯で、源泉温度はなんと100℃!少しは加水されているかもしれないが、湯口附近の
湯はめちゃめちゃ熱く、湯の表面辺りはヤケドしてしまいそうな勢いだ。そしてこの湯の最大の特徴は
その触感。そのペーハー値は9.8!つるつるぬるぬるの肌触りがなんとも気持ちいい。硫黄の香る
すべすべの湯にすっかりご満悦、もうもうとあがる湯気が天井に付着して水滴となり、ポトポトと
落ちてくるのも気にならない。冷えた体がしっかりと温まった。浴後、顔をつるりと触ってみると、
「湯上がりタマゴ肌になってる!」


丸進別館           浴室

真っ暗になった雪道に足をとられながら中山平温泉へと向かう帰り道、雪が散らついてきた。冷え切った
無人駅の待合室でしばらく佇み、やって来たワンマンカーに乗り込む。雪はさっきよりひどくなり、終点の
新庄駅に到着すると、本格的な雪になっていて、駅のホームにはたんまりと雪が積もっていた。新庄駅には、
今晩の宿のお迎えを頼んであり、駅の改札を出たところにある屋台の前で待ち合わせ、ということに
なっていた。が、改札を出てもそれらしいものはなく、駅舎の外にもそんなものはない。だいたいこんな
ところでラーメンやおでんの屋台がはやるのかな、と思いながら宿に電話してみると、屋台というのは
お祭りの屋台、つまり山車のことであることが判明。屋台と聞いてラーメン屋の屋台しか思い浮かばなかった
自分の短絡思考が情けなくなりながら駅舎の中に戻ってみると、にぎやかな祭りの屋台が展示してあり、
その前に30代なかばの女性が立っていた。この人が今日の宿、羽根沢温泉「松葉荘」のおかみさんだった。


新庄駅に到着         これが祭りの屋台

お迎えの車で35分ほど走り、ようやく羽根沢温泉に到着。聞けば今日の宿泊客は俺だけらしい。なんだか
自分だけのためにわざわざ迎えにきてもらったのが申し訳ない気がしてきた。しかも一人泊、食事なしの
素泊まりというぜんぜん金にならない客だというのに!松葉荘はくたびれた鉄筋コンクリートの建物で、
屋根にはアホみたいに大量の雪が積もっている。とりあえずご主人にもご挨拶。30そこそこの若夫婦が
経営していたことに少し驚いた。底冷えのする館内を2階に案内され、「竹」という部屋へ。8畳の和室で
布団とコタツとテレビ。とにかく体が冷えているので、さっそく浴衣に着替えて温泉へ。浴室には白い
タイルの湯船がひとつ。当然男女の浴室に仕切り壁はあるものの、浴槽はその壁の下で男女がつながって
いるというちょっと色っぽいつくり。だが期待するだけムダ、こんなへんぴな温泉地に来る若い女の子なんて
いるわけない!浴槽には無色透明な湯が掛け流し。浴室に入った瞬間からほんわかと漂っている硫黄臭が
心地よい。泉質は重曹-食塩泉。コップで源泉を飲むと硫黄味に加えてほのかな塩味。そして肌触りは
ヌルヌル。中山平温泉に続く美肌系の湯だ。もうこのヌルヌル感が気持ちよくて、いつまででも体を
なでまわしてしまう。これは気持ちいい!ふと湯口に目をやると、湯の花を捕集するネットが取り付け
られており、そのネットには湯の花が大量にたまっていてヌルンヌルンのボヨンボヨンのベロンベロン状態
(言ってることわかります?)。とにかくすごいことになっている。ヌルヌル硫黄臭の羽根沢温泉、
ここを今日の宿泊地にしたのが間違いなく大正解だったと確信した。


松葉荘            浴室

部屋に戻り、水でも飲もうと冷蔵庫を空けると、よ〜く冷えたビールの大瓶がきれいに並んでいた。う〜ん、
これは想定外だ、イヤ、ホントに。思わず栓を抜き、グビグビと一杯飲み干す。うまい!晩飯として仙台駅で
買っておいた駅弁「南三陸松島かきめし」を酒の肴に飲む。三陸特有の小ぶりなカキの濃厚な旨みが良い。
酒の肴にして下さいと言わんばかりの笹カマボコが泣かせる。飲み食いしながら、玄関に置いてあった宿の
パンフレットを読んでみた。その表紙にはまずいきなり「鮭川村の奥座敷」、ときた。新庄の奥座敷なら
まだしも、新庄から車で30分の鮭川村のさらに奥座敷、そうとう奥ってことだ。羽根沢温泉の歴史はわりと
新しく、大正時代に石油を試掘していて湧出した温泉とのこと。県内唯一の間欠泉でもあるらしい。
そうこうしているうちにかきめしを完食してしまい、思わず朝飯にと買っておいた駅弁「笹巻きえんがわずし」に
目が行った。パッケージには、「南三陸の港町・女川でさばいた脂がのったカレイのえんがわを、宮城米
ササニシキを使い、こだわりの笹巻きずしといたしました」とある。食べたい、今ビールとともに食べたい!
衝動的に包みを開け、雪のように白いえんがわをペロリと食べた瞬間「!」。これはうまい!めちゃめちゃ
うまい!たっぷりと乗りまくりの甘い脂、コリッとする触感、とろける舌触り、まさに想定外のうまさ!
寒ヒラメが大好きな俺だが、カレイのえんがわもヒラメに負けてない。思わずビールも二本目に突入、これも
かなりの想定外。超絶品のえんがわずしにビールがガンガンすすむ。すっかりいい気分になったところで
知らぬ間にゴロンと眠りについていた。


かきめしで乾杯!       超絶品・えんがわずし

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